高関健=群響の「トスカ」
(文中の敬称は省略しています)


地方都市オーケストラ・フェスティバル●1998/01/18 日本のオケは東京の一極集中だと言われているけれど、東京以外でも活動しているプロのオケもたくさんある。定期的に東京で公演を行っているオケもあるけれど、それ以外はなかなか耳にする機会がない。オーチャードホールがオープンした当初は岩城弘之の企画で全国のオケを紹介する企画が行われいたけれど、残念ながら集客力がイマイチだったらしく3年くらいで打ち止めになってしまった。好企画だっただけに打ち切りは残念だったけど、今度はトリフォニーホールが3年計画で東京以外の14のオケを全て紹介する企画を打ち出した。それがこの「地方都市オーケストラ・フェスティバル」である。チケットも低廉で1回券でもS4,000〜B2,000円。連続券だとさらに安い。

 トリフォニーホールで始まった地方都市オーケストラ・フェスティバルの第1回目の公演は高関健=群馬交響楽団による演奏会形式のプッチーニ「トスカ」である。群響自身も1月13日の定期演奏会も同演目で取り組んでおり、万全を期しての東京公演である。

 この前、群響を聴いたのは何時だったか・・・正確には思い出せないけど、少なくともその時の常任は高関ではなかったように思う。93年には常任指揮者として高関健が就任したけど、今日の演奏を聴く限りオーケストラ・ビルダーとしての高関の力量が充分に発揮された公演だったろうと思う。高関という指揮者はスター性も乏しいし、あまり特徴もないので注目されにくいタイプの指揮者だけど、その堅実なタクト、音楽の自然な流れは指揮者としての力量の高さをうかがわせる。高関のオペラを聴くのは、このトスカが初めてだと思うけど、歌手の呼吸を大事にした管弦楽、そしてライトモチーフの描き分けの巧みさ、ドラマとしての起伏も申し分ない。各パートの音色の魅力では若干の見劣りはするとしても、東京のトップクラスのオケと比較しても勝るとも劣らないアンサンブルで、プッチーニの劇的なドラマを描き出して見せた。

 歌手では、福井敬と豊田喜代美の主役ふたりが良かった。福井敬は、新国立劇場「ローエングリン」以来、好調をキープしているけれど、声の張り、声量、表現力とも申し分ない。ただし、ところどころで張り上げるような声が気になる。歌の流れを阻害してしまうし、このホールだったら普通の声でも充分に通る。このような歌い方を続けていると、いくら好調でも声を潰しちゃうんじゃないかと心配してしまう。豊田喜代美も、私の好きなソプラノのひとり。ところどころで声が荒れてしまったのが気になるけれど、芯があって引き締まった歌声を駆使して全体的に見れば素晴らしい出来だろうと思う。このオペラの有名なアリアと言えば、トスカの「歌に生き、恋に生き」と、カヴァラドッシの「星は光りぬ」だけど、どちらもちょっと空回りしてしまったのは残念。

 スカルピアを歌った福島明也は、ふたりの影に隠れてしまった感じで、この役に必要な狡猾さや強力な存在感は希薄。その他の脇役、合唱団は問題なし。舞台は、指揮者の隣で歌う、ほぼ完全なコンサート形式で、振付や演出などはほとんどなかった。ついでに字幕スーパーも無しという、シンプルな上演。最近は字幕スーパー付きが常識なのだけど、今日は対訳のページをめくる音が耳障りだった。

 「トスカ」は、上演機会の多い演目だけに、平凡な演奏で感動させることは難しい。しかしこの日の群響は、素晴らしい熱演で、音楽的に高いレベルの「トスカ」の上演を実現してくれた。歌手も素晴らしかったけど、なによりも高関に率いられたオーケストラの素晴らしさに拍手を贈りたい。群響の定期演奏会が、常にこのレベルでキープされているとしたら、実に素晴らしいことだ。