キーロフ歌劇場の「カルメン」

(文中の敬称は省略しています)


●96/11/13 キーロフ歌劇場の来日公演最後の演目は、ビゼーの「カルメン」である。 今回の3演目の中では一番の売れ行きで、東京文化会館は9割以上の入り。 やっぱりオペラ・ファンの多くは聴きやすい演目を選ぶんですね。

 今回の「カルメン」は、あのゲルギエフのぶっちぎりの伴奏を聴けるのかと思って 期待して出かけたのだが、そーゆー意味では違った伴奏。 「オテロ」「マクベス夫人」の2演目はオケ優位の上演だったのに対し、 今回は歌手にかなり神経を配っているようでパワーはかなりセーブしていたような感じ。 NHKホールで上演した「オテロ」の方が音圧を高く感じたくらいである。

 それにしてもオケの足取りは重たかった。 もっともキーロフのオケに流麗華美な「カルメン」を期待してはいなかったけど、 連日の来日公演の疲労感が一気に出てしまったのか・・・と思ったほど。 第4幕に入ってから燃えるような伴奏でサポートしてくれたのが救いだろうか。

   歌手では先日のベルリン・フィルのソリストも勤めたタラーソワがカルメンを好演。 第一幕は声が出ていない感じもあったけど、硬質かつ強い声で歌い回しも見事。 舞台姿も美しく、こーゆー悪女ならドン・ホセが惑わされるのも解る気がする。 ドン・ホセのアレクセーエフはまぁまぁの出来。 エスカミーリョを歌ったブチーリンは声が通らなくて、 闘牛士の歌ではオオポカをやったりして、いささか軽薄な雰囲気。 ミカエラはネトブレコは、良い声をしているけど歌い回しが堅い。 でも清純派のミカエラには好適かもしれないし、容姿も美しかった。 でもミカエラがこれだけ美人で性格も良いと、 ドン・ホセはあえてカルメンを選ぶ必然性はないんじゃないかなぁ・・・。

 演出は全体としては凡庸なもので、装置も簡素。 第一幕からカルメンの仲間の密輸団が登場して、 ホセが捕まえたカルメンを逃がすシーンに絡むとことなどは工夫の跡が見える。 全体としては、いわゆるフランス風のカルメンを期待していた人には不満は大きかったと思うけど、 その辺の許容範囲が広い人には面白い上演だったのではないだろうか。 第4幕はオケもいつもの調子を取り戻して、カルメンとホセの白熱したやりとりを堪能できた。 この部分こそ、ゲルギエフの「カルメン」に期待した内容が凝縮されていたと思う。