リンツ・ブルックナー管弦楽団

(文中の敬称は省略しています)


●96/10/11 ブルックナーの没後100年目の命日の演奏会は、本場リンツのブルックナー管弦楽団。 率いるのは92年より首席指揮者をつとめているマルティン・ジークハルトで、曲目はブルックナー最後の交響曲9番と「テ・デウム」。東京芸術劇場はほぼ満員となった。

 以前に朝比奈=東響で同じ曲目で聴いたことがあるけど、最初に「テ・デウム」を演奏して休憩後に9番を振ったはず。 今回のブルックナー管弦楽団は、ブルックナーの「指示」通り、9番のあとに未完成の第4楽章の代わりとして演奏した。

 このオケを聴くのは初めて。名前から想像するといつもブルックナーばかり演奏しているオタクっぽいオケみたいだけど、 リンツ州立歌劇場のピットもつとめる座付きオケとしての性格もある。聴いてみるとなかなか巧いオケなので驚いた。 洗練された美しさは求めることは出来ないけど、素朴で柔らかな響きを特徴とする。 ブルックナーの第9交響曲というと死の予感を感じさせる緊張感がつきまとうけど、このオケが演奏するとそーゆー側面はかなり希釈されてしまう。 ゆったりとまろやかに流れていく感じで、鋭角的なところがない演奏なのである。この部分ではいささか拍子抜けしたけど、これもひとつの解釈。

 第3楽章が終わったらすぐにフライング拍手が起こってがっかりしたけど、独唱(大倉由紀枝・栗林朋子・福井敬・河野克典)と合唱(東京オラトリオ研究会)が登場して「テ・デウム」が始まった。 合唱は総勢200名を越える編成だったけど以外に粒が揃っていて、独唱の水準も高かった。でも9番と「テ・デウム」ってどう考えたって相性がいいとは思えないなぁ。 死の予感が漂う緊張感の後、お祝いチックに「テ・デウム」が始まるのは神への賛美とはいえ、葬式のあとで御輿を担ぐ感じだ。 いかにブルックナーの「指示」があるとはいえ、改訂癖のある彼のこと、今生きていれば考え直すに違いない。