カザルスホールのオルガン

(文中の敬称は省略しています)


●1996/10/02 9月に久しぶりにカザルスホールに行ったとき、ステージ上に奇怪?な張り出しが出来ているのに気がついた。いささか不細工な感じがするけど、これはステージ正面にオルガンのせる梁を造るためとのこと。完成後の予想図は図の通りらしいけど、ホール完成後にオルガンを設置するというのはなかなか勇気のいる行動ではないかと思う。

 大ホールの正面にオルガンを据え置くのは大阪のシンフォニーホール以降、流行になって、東京ではサントリーホール、東京芸術劇場に世界最大級のオルガンが設置された。当初は物珍しさから聴きに行った人も多かったけど、それ以降なかなかオルガンの演奏会が増えたという実感に乏しい。キリスト教圏の教会の中で育ったオルガンと日本の文化の相克・・・というと大げさだけど「溝」があるのは確かだろうと思う。

 コンサートホールはオルガンが入って初めて完成する・・・という意見もあるけど、同時に問題も抱えていて、たとえば残響時間はふつーのコンサートホールではオルガンにとって短すぎるのは明らか。普段は3階席が好きな私でも東京芸術劇場の場合、オルガンの音が下から聞こえてしまうのはちょっと違うような気がする。やっぱりオルガンは天上の声でなければいけない。そんな判断もあってだろうか、水戸芸術館のオルガンはコンサートホール内にはない。エントランスをオルガン向きに音響調整して、そこに設置してあるのだけれど、教会のオルガンのように高いところにあって、響き方なんかととえもそれらしくてとても良かった記憶がある。

 カザルスホールに入るオルガンは、北ドイツのユルゲン・アーゲント氏制作で41ストップの三段鍵盤、完全な手動制御式で、送風機の他は電気的な制御は全く行わない。それゆえ伝統的なオルガンの音が響くとのことである。オルガンの工事は来年2月に据え付けが行われ、1ヶ月の整音とチューニング、その後しばらくホールの温度、湿度に慣れさせるために時間をとって、お披露目は来年10月になるらしい。このスケジュールから考えても、ホールにオルガンを入れるというのは大変なことで、温度がちょっと変わっただけでピッチが変わってしまう気難しい楽器だけにランニングコストも大変だろうと思う。

 カザルスホールの場合、小ホールとしては残響が長めで、平土間席がメインなのでオルガンとの上下関係もなかなか良い。さらに、私がこのオルガンに期待しているのは、カザルスホールが室内楽で果たしている主導的役割を、オルガンでも果たしてくれないだろうかということ。いかに良い楽器を入れてもそれを生かす企画力が十分じゃないとなかなか難しいのは実証済み。私が室内楽を好きになったのも、このカザルスホールの良質な室内楽企画があったからこそで、その役割をオルガンでも果たしてくれるととても嬉しい。あえてホール開館後のオルガン設置という難しい課題に挑んだ以上、それなりの「勝算」があってのことだろう。ハードウエアとしてのオルガンよりも、ソフトウエアとしてのオルガンに注目したい。(1996/10/02)