チェルカスキーの最後の録音

(文中の敬称は省略しています)


 ●1996/09/14 毎週恒例の秋葉原詣で、またチェルカスキーの新譜を見つけた。現在、チェルカスキーのディスク・ライブラリーを作成中で、足りないものを捕捉するために秋葉原に出かけたのだけれど、思わぬ収穫だった。

 ものはDECCAの「448 401-2」で、ラフマニノフのコンチェルト第3番(テミルカーノフ指揮ロイヤル・フィル)である。そのほかにもラフマニノフの前奏曲などがカップリングされているけど、ジャケットには「THE FINAL RECORDING」と書かれている。コンチェルトは1994年11月ロンドン、ラストレコーディングに該当するソロは1995年5月ロンドンでの録音、つまり彼の死の半年前である。

 思い入れのある演奏家、特にライヴで好きになった演奏家の録音が出ると、いささか不安な気持ちで録音を聴くことになる。チェルカスキーの場合、ライヴの良さの半分でも録音に納められたら大成功と言えるんじゃないだろうか。録音では真価がわかりにくいので、頭の中で録音に足りないところを勝手に「補正」して聴いてしまうことがある。したがって話半分で読んで頂ければいいのだけれど、この録音から、死の予感なんてまったく感じ取ることはできない。

 コンチェルトの方は、出だしのテンポの遅さにちょっと驚いたけど、ロマンティックな謡回しはチェルカスキーならでは感涙もの。ピアノの音それぞれの粒立ちの良さは特筆に値する。チェルカスキーのようなピアニストの場合、サポートする方も難しいのだけれど、これはいい線いってる。私はあんまり同曲異盤はもっていない方なのだが、文句なくこれはお薦め盤である。ソロの方はまだ聞き込んでいないので、ライブラリーが完成したらまた改めて、ということで。

 同時に仕入れたCDは dante の復刻版で、1934-1935年に行った彼の最初の録音。最初の録音と最後の録音を同じ日に買うことになるというのは、実に不思議な気分である。(1995/09/15)