尾高忠明=KST

(文中の敬称は省略しています)


●97/12/29 今年最後のコンサートは、尾高忠明指揮の紀尾井シンフォニエッタ東京の定期演奏会。ベートーヴェンの「エロイカ」という選曲のためか、年末で第九に飽きたリスナーが集まったのか・・・ともあれ会場はほぼ満員になった。このところ空席が目立ったKST定期だけに、久しぶりの満席である。

 まず前半はベートーヴェンの交響曲第3番で、弦楽器は10−8−6−5−3という編成。ステージ上のオケは40人強で、見るからに少人数だ。しかしモダン楽器で室内楽ホールだったら、この編成でも充分すぎる音量を堪能することが出来る。第1楽章は各パートのまとまりが悪くバラバラに聞こえてくる。音程とかピッチのような問題ではないのだけど、音がきれいに解け合わない感じがして馴染めない。第2楽章も、途中で弛緩してしまって緊張感が途切れてしまう。遅い楽章ほど音のつながりが重要視されるけど、フレーズ毎に途切れてしまうように聞こえる。前半はちょっと不満な演奏だったけど、後半のテンポが速くなってからは良くなって、キレがよい弦楽器をベースに推進力溢れる音楽を披露した。大編成のオケと違って重量感には乏しいけど、見通しの良くキレのあるベートーヴェン像を結実させた。前半の問題点は指揮者に由来するんだろうと思うけど、いつもとは違う版を用いたのも一因なのだろうか? (今回の「エロイカ」は伝統的な版をベースに、最新のベーレンラーター版の修正内容を参考にして変更を加えたらしい)

 後半はR・シュトラウスの「メタモルフォーゼン」。今回の演奏会の妙とも言うべき選曲で、ベートーヴェンの「エロイカ」第2楽章の引用のあとがしっかりと聞き取れる弦楽合奏曲である。別名「23人の弦楽による習作」とタイトルが付けられているように、演奏者一人ひとりがソリストとしての役割が与えられているけど、KSTならではの優秀な弦楽器は高水準の演奏を聴かせてくれた。どの奏者も音が均質で、統一感がある弦楽器が、R・シュトラウス特有の上昇線のフレージングを描いていくあたりはなかなか感動的。悲しげな旋律が支配する曲だけど、弦楽オケのレパートリーとしてもっと取り上げられて良い曲だろうと思う。この日の2曲の演奏に対して、それぞれ熱烈な拍手が贈られた。