まずは「エグモント序曲」である。これがなかなかの演奏で、出だしの重量感のある弦楽器が素晴らしい。楽想に応じたメリハリもつけて、最後のスピード感も見事。短い曲だけど、会場はなかなかの盛り上がりを見せた。休憩なしで「第九」に入ったけど、こちらは第1〜2楽章とちょっと重たい感じ。聴き手としても集中力を欠いてしまった部分もあるのだけど、第3楽章以降はなかなかの演奏を聴かせてくれた。井上らしい楽想に応じた表情づけは決して過度にならず、いたって自然に聞こえてくる。都響も井上のタクトに敏感に反応して、美しい表情を織りなし、第4楽章に入った。
残念ながら独唱のうち澤畑恵美、ディリア・ウォリスの声量が乏しかったけど、福井敬の声は美しく響き、三原剛の声は軽めながら充分な存在感をアピールした。合唱は二期会合唱団で、男声30名、女声40名程度の小編成。しかしながら統率の取れた合唱は、先日の朝比奈=NJPの合唱とは段違いの水準だったと思う。声量も小編成とは思えないものだったし、声の均質感、音程などは、アマチュアとは明らかに一線を画すものだろう。ただし海外の歌劇場などを聴くともっと素晴らしい合唱団があるのは事実で、それとの差を考えてると、それぞれのパート毎の存在感が希薄な上に、声の立ち上がりの鋭さ、ピアニッシモの美しさをもっと磨き込む余地がある。
全体的に見ると、井上道義らしい生命感ある「第九」の演奏を堪能できた。人気と実力と独特のキャラクターを兼ね備えた指揮者だけに、なんで京響を解任されてしまったのか理解に苦しむけど、今後とも充実した演奏を期待したい。