敵役フンディングを歌ったパーペは実に安定している。声量、貫禄とも申し分なく、広いNHKホールの舞台でもその存在感は抜群。さらにヴォータンを歌ったトリムンソンも素晴らしい。ブリュンヒルデへの愛情と、その裏返しとしての憎しみ、フリッカとの「夫婦喧嘩」で表した各々の感情表現の巧みさは筆舌に尽くしがたい。ブリュンヒルデのポラスキもウワサ通りの強靱で輝かしい美声の持ち主。ヴォータンとブリュンヒルデの別れの場面は、この日の舞台の最高のシーンだった。またフリッカを歌ったラングも、その役割をきっちりと果たしていた。
クプファーの演出は、彼にしてはオーソドックスなものかもしれない。チラシの写真にもあるように、背後に格子状のネオン管が配されているのが特徴なのだけれど、それ以外の舞台装置は意外と簡素。第一縛では中央にパイプが貫通したトネリコの樹が置かれていたり、第2幕ではヴォータンが神々の終末を予言した途端に天上からでっかい樹が落下したりする。第3幕ではブリュンヒルデが眠りにつきヴォータンが岩山に火を巡らせるシーンでは、背景のネオン管が大活躍する。いろいろな仕掛けはあるけど、基本線はきちっと押さえているので全く違和感はないし、演技も歌手に徹底している。ただ第2幕のジークムントが、頭から白いペンキを被っているように見えたけど、どーゆー意味があるのか解らなかった。
管弦楽は、「パルジファル」よりはちょっとレヴェル・ダウンした感じ。ところどころ荒さを感じるところもあったし、第一幕ではちょっとテンポの遅さと盛り上がりに欠けるところがあって、集中力が途切れがち。ところどころで大きく鳴らしていたけれど、基本的には音量不足・・・特に弦楽器の音量不足を感じた。もう少しワーグナーらしい「うねり」を感じさせて欲しかったけど、全体的に見れば充分に及第点はつけられるレヴェル。充実した歌手と合わせて、久しぶりにワーグナーの音楽を堪能させてもらった感じがする。