ベルリン国立歌劇場「ワルキューレ」

(文中の敬称は省略しています)


●97/11/21 今回のベルリン国立歌劇場来日公演で「ワルキューレ」は3回上演されたけど、その最終回の会場=NHKホールはちょっと空席が目立つ。平日の午後5時開演じゃ行きにくいし、しかもこの日はジークリンデはマイヤーじゃない。まぁ、この程度の空席は仕方がないんだろうと思うけど、全体的に見たら登場する歌手は現代を代表するワーグナー歌手と言って良い。  ジークムントのエミリングは風邪が完治していない中での登板だけど、素晴らしい声の持ち主だ。引き締まった輝かしい高音はヘルデン・テノールのイメージにピッタリ。どこが風邪なんだろう・・・と思ったけど、やっぱり第一幕後半になると声が枯れ始める。はじめの勢いはどこに行ったのやら・・・「冬の嵐は過ぎ去り」や「君こそが春」など名場面が最高の歌声で堪能出来なかったのは残念。しかし、この歌手が調子良ければ、最高に近いワーグナーを聴かせてくれるのではないだろうか。対するジークリンデを歌ったキーベルグはちょっと存在感が薄かった。演技に関してはなかなかの熱演を見せたけど、問題は声が響かないこと。NHKホールなので仕方がないと言えば仕方ないけど、唯一3幕まで出ずっぱりの役なので、やっぱりマイヤーで聴きたかった。

 敵役フンディングを歌ったパーペは実に安定している。声量、貫禄とも申し分なく、広いNHKホールの舞台でもその存在感は抜群。さらにヴォータンを歌ったトリムンソンも素晴らしい。ブリュンヒルデへの愛情と、その裏返しとしての憎しみ、フリッカとの「夫婦喧嘩」で表した各々の感情表現の巧みさは筆舌に尽くしがたい。ブリュンヒルデのポラスキもウワサ通りの強靱で輝かしい美声の持ち主。ヴォータンとブリュンヒルデの別れの場面は、この日の舞台の最高のシーンだった。またフリッカを歌ったラングも、その役割をきっちりと果たしていた。

 クプファーの演出は、彼にしてはオーソドックスなものかもしれない。チラシの写真にもあるように、背後に格子状のネオン管が配されているのが特徴なのだけれど、それ以外の舞台装置は意外と簡素。第一縛では中央にパイプが貫通したトネリコの樹が置かれていたり、第2幕ではヴォータンが神々の終末を予言した途端に天上からでっかい樹が落下したりする。第3幕ではブリュンヒルデが眠りにつきヴォータンが岩山に火を巡らせるシーンでは、背景のネオン管が大活躍する。いろいろな仕掛けはあるけど、基本線はきちっと押さえているので全く違和感はないし、演技も歌手に徹底している。ただ第2幕のジークムントが、頭から白いペンキを被っているように見えたけど、どーゆー意味があるのか解らなかった。

 管弦楽は、「パルジファル」よりはちょっとレヴェル・ダウンした感じ。ところどころ荒さを感じるところもあったし、第一幕ではちょっとテンポの遅さと盛り上がりに欠けるところがあって、集中力が途切れがち。ところどころで大きく鳴らしていたけれど、基本的には音量不足・・・特に弦楽器の音量不足を感じた。もう少しワーグナーらしい「うねり」を感じさせて欲しかったけど、全体的に見れば充分に及第点はつけられるレヴェル。充実した歌手と合わせて、久しぶりにワーグナーの音楽を堪能させてもらった感じがする。