フルネ=都響「ファウストの劫罰」

(文中の敬称は省略しています)


●97/11/12 ベルリン国立歌劇場の「ワルキューレ」、朝比奈=NJPのベートーヴェン・チクルスと、並み居る強敵に挟まれてフルネ=都響の定期演奏会は苦戦したようだ。ベルリオーズの大作「ファウストの劫罰」にも関わらず、東京文化会館は空席が目立ち、3階以上のサイドの席は1〜3割程度の入り。全体でも半分強の入りだと思う。まぁ、確かにフルネは地味系の指揮者だと思うけれど、もう少し評価されても良い指揮者じゃないだろうか。私個人としては、都響に客演する指揮者の中では最も高く評価している指揮者で、齢八十を超えてなお衰えぬ指揮活動を行っている。

 さて、その演奏だけど、フルネ=都響はさすがに相性が良い。音色の豊かさ、オケの反応の良さは、他の指揮者と比べて明らかに水準が違う。フルネとしてはやや鳴らした演奏だったと思うけれど、過度な演出効果は避けて、決して品位を失わない演奏だった。空席が多かったこともあって、ホールが良く響く。東京文化会館は空席だと残響が2秒ということなので、かなりそれに近い豊かな響きだった。オケの機能性ゆえの問題もあったけれど、基本的には満足できる水準。

 ただしソリストにはちょっと不満。小林一男(ファウスト)が不調で、精一杯頑張っているのは解るけれど、高音域で伸びないし苦しさを感じる。寺谷千枝子(マルガリータ)のウエットな声も、個人的にはあまり好きな系統ではない。稲垣俊也(メフィストフェレス)は「建・TAKERU」に続いて抜群の存在感を感じさせたけど、威厳が表面に出てしまって狡猾さが後退してしまった感じ。まぁ、これは好みの問題だと思う。あと晋友会合唱団も頑張ったけど、やっぱりフランス語の語感がカタカナっぽくで聞こえるのは残念。これは歌手にも共通する問題だけど、イタリア語やドイツ語はかなりそれらしく聞こえるのに、フランス語はやっぱり難しいんだろうな。その点をのぞけば、高水準の「ファウストの豪罰」だった。