その成果だけど、個人的にはこのオープニングの中では一番良かったと思う。管弦楽のテンションの高さや統率感では小澤に一歩譲るものの、オーケストラの自発性ではむしろロストロの方が高いかもしれない。ピアニッシモでも密度を失わないし、管楽器を中心に音の美しさが光った。独唱では小澤の「マタイ受難曲」でも名唱を聴かせたバリトン、クヴァストホフの説得力溢れる歌が素晴らしい。テノールのアンソニー・ロルフ・ジョンソンは、最初は声が堅かったけど、音楽が進むにつれてしなやかな声を聴かせてくれた。この男声ふたりは、主にオーウェンの兵士の詩を歌うことになるのだけど、過度の感情移入を避けて淡々とした中に詩のイメージを盛り込んだ。対してソプラノと合唱は、聖書のテキストを歌うことになる。ソプラノのマクワヤ・カスラシヴィリは、声量は十分だけどキンキンした声質は好きではない。晋友会合唱団は、特に男声が素晴らしい出来映え。
あまり何度も聴きたいと思う曲ではないけれど、現代詩と聖書のテキストを採用し、その重なる部分と陰影となる部分が生み出すコントラストは効果的で、レクイエムとしては極めて意欲的、かつ異色の作品。大きな管弦楽を要する作品だけに、演奏機会は決して多くはない。このレベルで聴くことが出来る機会は貴重だろうと思う。