ハレー・ストリング・カルテット

(文中の敬称は省略しています)


●97/10/08 カザルスホールのレジデント・カルテットであるハレーSQ第31回定期演奏会。シューベルト・イヤーにちなんで1月の定期では「弦楽5重奏曲」、6月には「死と乙女」に取り組んできたハレーが、今回演奏したのは最後の弦楽四重奏曲である第15番、実に50分近い時間を要する大曲である。楽想は豊かだけど、緊張感が途切れると取り留めのない演奏に陥りやすい難曲。しかし、素晴らしいシューベルトの演奏を続けているハレーだけに、期待以上の良い演奏を聴かせてくれた。「名演」という言葉を安っぽくは使いたくないけれど、このレヴェルだったら「名演」という言葉に恥じない内容だったろうと思う。

 今回は前から2列目で演奏を聴いたのだけれど、漆原、篠崎、豊嶋、山本の4人のアンサンブルは一段と緊密になっている。かつての演奏は真っ赤な炎が燃えるような演奏だったとしたら、現在のハレーは青白い炎に変わったと言えるんじゃないだろうか。見た目では青い炎の方が落ち着いて見えるけれども、実際の温度は青い炎の方が高い。ハレーの燃焼度は、より高い次元に昇華されつつある。かつてなら火花が散るような演奏を聴かせただろうと思われる部分でも、アンサンブルとして求心力を決して失わない。楽想と旋律が豊かなシューベルトの曲だけに、実にドラマチック。音の美しさはもとより、緊張感の高さ、アンサンブルの密度は素晴らしく、体力的にも困難だろうと思われるこの曲を、素晴らしい演奏で聴かせてくれた。

 前半に演奏されたのはメンデルスゾーンの弦楽四重奏曲第4番。シューベルトよりは遙かに古典的な色合いが濃い曲で、かつてのハレーでは退屈な演奏になってしまっただろう。しかし、楽章による表現のコントラストの見事さ、見通しの良さが、単に美しいという評価を超える演奏に仕上げたといって良い。後半のシューベルトの影に隠れてしまったけれど、これも特筆に値する演奏だった。

 現在のハレーだったらベートーヴェンの後期を演奏しても、十二分に聴き応えのある演奏が出来るだろうと思う。是非ともベートーヴェンに取り組んで欲しい。しかし、これだけの演奏をしているのに、空席があるのはあまりにも勿体ない。今が聴き頃のカルテットだ、次回の定期は1月、今から待ち遠しい。