プラッソン=ドレスデン・フィル

(文中の敬称は省略しています)


●97/10/02 旧西ドイツのオケは機能性を追求するあまりにドイツ伝統の響きが失われつつあるのに対し、旧東ドイツのオケは人事の交流が乏しかったことが功を奏して伝統の響きを堪能させてくれることが多い。ドレスデンといえば世界最古のオペラハウスであるドレスデン国立歌劇場(ザクセン州立歌劇場)と、その座付きオケであるシュターツカペレ・ドレスデンはあまりにも有名で、かつては若杉弘も常任指揮者を務めていたことでも知られている。今回聴きに行ったドレスデン・フィルは、1870年創立というから歌劇場には遠く及ばないけれど、かなりの伝統を持っているのは間違いない。指揮者はフランスのミッシェル・プラッソン。なんかドイツのオケにフランス人指揮者というのはミスマッチのような気がするけど、このコンビからどのような響きが醸し出されるのかが楽しみ。会場のサントリーホールは招待客が多かったみたいだけど、ほとんどの座席が埋まっていた。

 曲目は、ドイツの伝統的な曲に、現代曲を組み合わせたもの。

 このオケの響きも、先日のリヨン歌劇場管弦楽団と同様に、日本のオケでは聴くことの出来ない音だろうと思う。弦楽器の音量は小さめだけど、くすんだ銀のような音色は伝統を感じさせる。管楽器系はそれほど巧いというわけではないけれど、音色的な統一感は見事。それほど高価な楽器を使っていないんだろうなぁ・・・などと邪推をしてしまったのだけれど、アンサンブルは見事に整えられていて、各パートが綺麗に分離する。そしてプラッソンのタクトに敏感に反応しているのは好ましい。シューベルトは、やや遅めのテンポでゆったりとオケを歌わせた好演。「田園」も、嵐の雷鳴などの迫力には乏しかったけれど、古びたドイツの田園風景を思わせる演奏だった。

 W.クラフトの「ティンパニー協奏曲」は、ティンパニーだけではなく木琴、鉄琴、チューブラベルなど様々な打楽器を駆使する4人の奏者が主役になるのだけれど、現代音楽の中では非常に面白い作品だった。普通の曲の中でティンパニーを始めとした打楽器に与えられる役割は、料理に使われる「スパイス」の役割に近いんじゃないだろうか。あるいは寿司の「ワサビ」か!? ティンパニーは音楽に不可欠な要素であるメロディを表現出来ない楽器だけど、それが音楽の主役となるのである。表現には自ずから限界があるけれど、音色的な変化とリズムだけでも充分に聴き応えがある曲になり得るんだなぁ・・・と思った。ソリストの上野信一はトゥールーズ・キャピトル管弦楽団の首席奏者で、カーテンコールで好意的な拍手を集めていた。オケへの拍手も大きく、アンコールにはブラームスのハンガリー舞曲第1番とビゼーの「アルルの女」からアダージェットが演奏された。

 以下、余談。終演後は、サントリーホールの近くに9月30日に開業した「溜池山王駅」から帰ることにしたので、そのレポート。この駅の開業によって、駒込や王子の方に直結している営団「南北線」と、渋谷−新橋方向へ行く「銀座線」がサントリーホールから近くなった。駅の地下道の入り口はホールから3分くらい、「へぇ〜、近いじゃん」と思ったけど、そこからの地下道が長い。改札からホールまでは6分くらいは見込んだ方が良さそう。あと帰りは自動券売機はちょっと混雑するので要注意。これでサントリーホールの「どの駅からも遠い」という欠点が、かなり解消されたことになったんじゃないだろうか。あとアークヒルズにサントリーホールとともに開業した「カフェ・コンチェルト」「ル・マエストロ」「バー・マエストロ」の3店が、9月いっぱいをもって閉店した。マエストロ系は値段が高いので入ったことはないのだけれど、「カフェ・コンチェルト」はそれなりに利用していたので残念。これもバブル崩壊の余波だろうか。