今回はグラズノフの「叙情詩」とヴァイオリン協奏曲(Vn:諏訪内晶子)、休憩をはさんでストラヴィンスキーのバレエ音楽「火の鳥」(1945年版)。「叙情詩」はそのタイトルの通り、霧の中の幻想的な光景を眺めるような雰囲気の作品。ヴァイオリン協奏曲も、ところどころに美しいフレーズが登場する作品ではあるけれど、それが断片的で曲全体を統一する構造に弱い。正直言ってあまり魅力のある曲だとは思わないのだけれど、諏訪内の手に掛かるととても魅力的に聞こえるのは何故だろう。硬質の音色は抜群に美しいし、音量もNHKホールでも不満のないレヴェル。さらに楽想によって様々に変化する歌いまわしも実に知性的だ。ステージ上の凛とした立ち振る舞いが、そのままヴァイオリンに乗り移った感じ。今年になって彼女のヴァイオリンを聴くのは初めてだけど、昨年よりも表現力の点では長足の進歩が感じられる。スヴェトラーノフのサポートも、彼としては比較的セーブしたものだった。
そして休憩後の「火の鳥」は圧巻。管弦楽で綴った豪華な音絵巻みたいな曲だけど、スヴェトラーノフが味付けすると、「火の鳥」なんだか「焼き鳥」なんだか解らない。まず、テンポの設定が遅いところはさらに遅くするのだけど、音楽的密度が薄くならないため不自然にはならない。急速にスピードを上げたり、ダイナミックレンジも広く活用して、NHKホールでも音響効果は不満を感じさせない。フィナーレなんかは極端にタメが入って超濃厚系の「火の鳥」に仕上がった。ここまで濃厚な味付けをしたのは初めて聴いたけど、こりゃ、好き嫌いは分かれるだろうな。たまには味付けが濃い料理を食べたくなるけど、普段は飽きないふつーの料理の方が良い。スヴェトラーノフの演奏は、濃厚なロシア風焼き鳥に仕上がったけど、やっぱりゲテモノ系の料理なんだろうと思う。私は堪能させていただきましたけど・・・(^_^;)いつも聴きたいと思う音楽ではありません。