小泉和裕=都響のブラームス

(文中の敬称は省略しています)


●97/09/10 夏休みが終わって、秋のコンサート・シーズンが始まった。都響の秋の演奏会の始まりは、首席指揮者・小泉和裕によるブラームス・プログラムである。渋くたそがれた雰囲気が漂うブラームスのシンフォニーには、秋のイメージを持つ人が多い。今日の選曲は、交響曲第2番と4番、いずれも名演奏の名録音が多いだけにナマで感動を与えるのはなかなか大変だろうと思う。会場の東京文化会館は、当日券売場に長い列が出来てホールは8割を超える客席がうまった。東京文化会館にしてはなかなかの入り。

 さて、演奏の方は交響曲の2番から。小泉は、楽章の性格をより際立たせようと第1楽章は重厚に、第2楽章はロマンチックに、第3楽章はリズミカルに、第4楽章はドラマチックに・・・・仕上げようとしていたように感じた。ところが都響から出てくる音が重たくて歯切れが悪い。第1楽章は遅すぎて音楽が進まないし、木管やホルンの音がダメで、弦楽器も音の密度がない。第3楽章以降はなんとか持ち直す気配を見せたけど、全体的に見れば水準以下の演奏だったと思う。うーん、好きな曲だけに残念!

 休憩後の第4番は、全体に練習量を感じさせる演奏でかなり持ち直した。弦楽器もテンションが格段に高くなり、切れも良くなった。ホルンや木管にはまだまだ不満を感じるけど、全体的に見ればスピーディで起伏の強調された演奏で、一定の水準には達したかな・・・という感じ。ただ音楽がゆっくりしたところにさしかかると、とたんに音楽の密度が低下して、各パートの噛み合わせが悪くなるのが気になる。

 ブラームスの交響曲第4番は、92年にアバド=ベルリン・フィル、93年には小澤征爾=ウィーン・フィルなど、そうそうたる顔ぶれで聞いたけど、どれもダメで、なかなか難しい曲だと思う。厚いオーケストレーションの割には、各声部のバランスが重要で、それが崩れると途端にブラームスの香りが失せてしまう。そんな中で一番良かったのは、93年のジャン・フルネ=都響の演奏である。これはもうダントツの水準で、フランス音楽のスペシャリストと言われている人から、ドイツ音楽の神髄とも言えるブラームスの名演奏が聴けるとは思っても見なかった。名演奏のブラームスからは本当に秋の香りを感じるのだけれど、今日の演奏からその香りを感じることは出来なかった。