清水和音ピアノ・リサイタル

(文中の敬称は省略しています)


●97/07/26 紀尾井ホールで行われた清水和音のピアノ・リサイタルで、ベートーヴェン・チクルスの最終回。この日は台風接近で悪天候。そのせいだろうか、会場は約8割程度がうまるにとどまった。私はあまりベートーヴェンのピアノソナタには明るくないのだけれど、一番安い席が1,500円ということもあって聴きに行った次第である。曲目はベートーヴェンのピアノ・ソナタから前半は17番「テンペスト」、18番、後半は22番、32番というもの。前半は2階のステージサイドの席で、後半は2階正面の席に移って聴いた。正面の方がバランスの良いのは明らかだけど、サイドの席でも音はそれほど悪くない。ただ視覚的にはかなり不満を感じる。

 清水和音の解釈はきわめて正統的なもので、ハッタリめいた部分はまったく感じさせない。音も美しい上に粒立ちがよい。耳障りになる音も聞こえてこないのはさすがだと思う。ただ、清水和音のピアノで4曲のソナタを一夜に聴くのも、ちょっと辛いように感じたのも事実で、彼のピアノ・音楽には意外性が乏しいのである。ダイナミックレンジの広さやスケール感もそれなりに感じさせるのだけれど、計算のあとが見えてしまう感じがする。その計算式を先読みしていくと、・・・・意外性に乏しくスケールを小さく見せてしまう感じがするんじゃないだろうか。

 決して悪い演奏ではないのだけど、私の波長にはちょっと合わない感じがした。終演後はブラボーの声も飛んでいたけれど、これだけのチクルスの最終回にしては拍手が小さめでクールな反応だった。