二期会の「リゴレット」

(文中の敬称は省略しています)


●97/07/19 東京文化会館で行われた二期会ヴェルディ作曲「リゴレット」の公演。初の日韓の歌手の交流が実現した公演で、その初日はリゴレットとジルダの二人を韓国の歌手が歌うのが注目である。リゴレットには韓国で人気のバリトン、高聖賢(コ・ソンヒョン)、ジルダはMETでも活躍している金秀貞(キム・スヒョン)、マントヴァ公爵には上原正敏が登場した。

 まず存在感を示したのがリゴレットの高聖賢。豊かな声量と感情表現は、この日の舞台の中では圧倒的。かなり荒削りな感じはあるけど、リゴレットという役柄である限りは、許せてしまう。また金秀貞も、声は美しいし、良く通る声質だ。堅めの声と歌い廻しにに好き嫌いがあるかもしれないけど、それさえ気にしなければ清純なジルダを巧く演じたんじゃないだろうか。迎える日本人キャスト、上原正敏はちょっと歩が悪い。特定の音域では艶やかで引き締まった声が美しいのだけど、高音部になると苦しいし声量もちょっと不満を感じる。表現力も今一歩。感情表現としては一本調子で、一生懸命歌ってしまうものだから、どうしても遊び人の公爵という雰囲気が出てこないのである。でも、まだ若い歌手らしいのでこれからが楽しみ。その他の歌手もや合唱は水準をキープしていた。

 オーケストラのピエール・G・モランディ指揮東フィルは印象薄め。座ったのが2階サイドなので、管弦楽がいつものように伝わってこないだけかもしれないけど、もう少し雄弁であっても良かったと思う。  演出は、藤原歌劇団でオーソドックスな演出を重ねてきた松本重孝が担当した。特徴的なものはなかったような気がするけど、正攻法の演出で手堅くまとめた感じ。舞台装置もそれなりに手が込んだものを使っていたし、衣装もまぁまぁ。歌手のバランスやアンサンブルとしては今一つで舞台全体の仕上がりとしては、必ずしも満足がいくものではなかったけど、アジアにはまだ知らぬ有望株がたくさんいるのかも・・・と思わせるには充分な内容だった。聴衆はやや少な目で9割程度の入り、休憩時にはロビーで韓国語(朝鮮語)で話す人も多かった。こんごも国際交流をすすめてほしい。