広上淳一=日本フィル

(文中の敬称は省略しています)


●97/06/27 日本フィルの「20世紀の作曲家たち」シリーズ、普段はあまり演奏されない20世紀の曲目を取り上げ、新たなスポットライトをあてようという意欲的な取り組みである。この日も珍しい曲が並んだけど、この選曲でサントリーホールが9割近く集まったのには驚いた。最近注目の指揮者・広上淳一が振ることも、このプログラムの魅力の一つになったのだろうと思う。

 まずバルトークの「弦楽のためのディベルティメント」。日フィルとしては弦の音が太く、大きく鳴らした演奏だったけど、音の密度は今一つ。縦の線が乱れがちで、遅めのテンポと相まって音楽が進んでいかない。第3楽章に入って持ち直したけど、全体としては練習不足は否めないんじゃないだろうか。

 続いて伊福部昭の「ヴァイオリンと管弦楽のための協奏風狂詩曲」(ヴァイオリン協奏曲第1番)。伊福部は1990年に都響「日本の作曲家シリーズ」で聴いて好きな作曲家の一人となった。でも、それ以来なかなか聴く機会がないので残念に思っていたけど、久しぶりに伊福部の音楽を聴くことが出来た。彼の作品は土俗的で、原始宗教の祭祀を思わせるような強烈なリズム感が特徴である。あの「ゴジラ」のテーマは伊福部の作曲だけど、このヴァイオリン協奏曲第1番はその原型となった作品で、第1楽章に「ゴジラ」が登場する(^_^;;)。独奏は元N響コンマスの徳永二男だったけど、豊かな音量を武器に強烈なリズムをピタリと決めていく。オケも熱気溢れるサポートを見せて大満足。終演後には作曲者も登壇したけど、その反応は日本の作曲家に対する一般的な拍手よりも圧倒的に大きいものだった。

 休憩後はラフマニノフの交響曲第3番は、滅多にナマで聴くことの出来ない作品。彼の交響曲に共通する欠点としては、曲全体を統一するテーマが弱いということだろう。この3番も、ラフマニノフらしいロマンチックなテーマや躍動的な音楽が交錯して走馬燈のように流れて行くけど、断片的で曲全体が統一されていない感じがする。広上=日本フィルはよく練習したと見えて、ダイナミックな演奏を聴かせてくれた。ラフマニノフ特有のほの暗い側面が後退してしまったけど、個人的にはCDで聴いたアシュケナージ=コンセルトヘボウよりは広上の演奏の方が好きかもしれない。アンコールはラフマニノフの「ヴォカリーズ」。