シュタルケルと日本の仲間たち

(文中の敬称は省略しています)


●97/06/20 95年に港区に出来たJTビルの中に「JTアートホール」がオープンした。サントリーホールからも歩いて10分程度の距離にある300人程度の室内楽ホールだ。ステージはコンサートの時だけせり上がる高低差のないホールで、椅子は食卓に並べても違和感のないようなものが並べられている。たぶん、このスペースは、普段、レセプションなどに使っているのだろう。ここで行われるコンサートは基本的にはホールによる主催公演だけで、このホールのプランナー(音楽監督:徳永二男、監督補:村井祐児、プランナー:佐久間由美子、練木繁夫、藤原浜雄、向山佳絵子、吉野直子)が様々なコンサートを企画立案するのだけれど、その演奏会は3,000円という低廉な料金で提供されている。したがって公演によっては発売初日に売り切れることも多い。

 この日のコンサートは、チェロの巨匠ヤーノシュ・シュタルケルを中心に室内楽を演奏する企画である。シュタルケルは1924年ハンガリー生まれ、シカゴ交響楽団などアメリカの主要オケの首席奏者を歴任し、現在はソリストとしての活動の他にインディアナ大学の教鞭をとっている。私は、以前に紀尾井ホールでベートーヴェンのチェロ・ソナタを聴いたのに続いて、彼のチェロに接するのは2度目。この日のJTアートホールの公演で、2曲目にシューベルトのソナチネ第1番(原曲はヴァイオリンだが、演奏者自身がチェロ版に編曲したもの)を聴いて改めて感じたけど、チェロとしては音量は小さめで、音色的にも渋く、歌い回しにも表情が乏しい。若いときのシュタルケルの演奏は聴いたことがないので何とも言えないのだけど、現在の演奏を聴く限りにおいては、ヨーヨー・マやマイスキーなどと比較して存在感を発揮するのは難しいかもしれない。

 さかのぼって1曲目は、練木繁夫(pf)、藤原浜雄(Vn)を加えてシューベルトのピアノ三重奏曲第2番で、40分に及ぶ大曲。最初はピアノの音が大きすぎるなど、音がかみ合わなくてぎこちない感じがしたけど、徐々にこなれてきた。藤原のVnの音がちょっと細目かな。個人的にはあまり魅力を感じる曲ではないけれど、臨時のトリオとしては、良い演奏だったと思う。休憩後はさらに川崎雅夫(Va)が加わって、ブラームスのピアノ四重奏曲第3番。これは白熱した名演奏。急造の4人だから練り込まれた美しい演奏や均質な音を望むのは難しいだろうし、実際の演奏もそのようなものではなかった。それぞれ個性的な音なのだけど、4人の音が良い意味でぶつかり合い、熱気溢れるブラームスを奏でていくのを聴いて、しばし心を奪われた。特に曲全体をリードした練木のピアノが光った。

 私はノン・スモーカー(正確には煙草を止めた)なので煙草の煙は苦手だけど、こーゆーコンサートをやすく提供してくれる分には歓迎する。出来れば煙草一箱1,000円くらいにして、増収分を文化事業にまわしたら、もっと喜ばれるのではないだろうか(^_^;)?