デュトワ=N響「夏の夜の夢」

(文中の敬称は省略しています)


●97/06/19 今日のN響定期は、この前のマーラーの時より客の入りが悪く、3階席ではずいぶんと空席が目立った。でも武満徹「ファミリー・トゥリー」とメンデルスゾーン劇音楽「夏の夜の夢」というプログラムはデュトワ向きだし、とても魅力的だと思うのだが・・・。

 私は武満徹の音楽の理解者と言えないのが残念だけど、今日の「ファミリー・トゥリー」という作品はとても良かった。家族の情景を抽象的に描いた作品だけど、サブタイトルに「若い人のための音楽詩」とつけられているように、谷川俊太郎の「はだか」という詩集から六編をとり、その朗読に伴奏をつける形式の25分程度の曲である。詩の朗読は遠野凪子という17歳の女優。必要以上の感情を込めないで淡々と流れていく朗読で描かれる家族の情景は、少女の視点から描かれていてとても印象的。特定の家族観を押しつけるような曲だとしたら閉口しただろうけど、曲も説明的ではなくて、聴き手のイマジネーションの扉を開ける「鍵」の役割に徹している。N響の音も研ぎ澄まされた綺麗な伴奏で、最終楽章の登場する御喜美江のアコーディオンも懐かしい響き。とても美しい作品だ。

 休憩後は「夏の夜の夢」は、独唱と女声合唱、妖精パックに扮する江守徹の朗読付き。だけど、朗読の江守徹は管弦楽の興味をそいでしまった感じだ。この作品の狂言回しを演じる妖精パックを演じるには、あまりにも年齢を感じさせ過ぎる。無名でも良いから少年(少女)にこの役割を演じさせた方が良かった。デュトワによってトレーニングされた管弦楽はなかなかの好演を見せたけど、情景描写が中心の作品で、1時間も飽きさせないで聴かせるのはなかなか難しい。一度、舞台付きでこの作品を聴いてみたいと思うのだが、実現は難しいのだろうか。