ハレー・ストリング・カルテット

(文中の敬称は省略しています)


●97/06/14 カザルスホール・レジデント・カルテットである「ハレーSQ」の定期演奏会は、今回で30回目を迎えた。ハレーSQは6月10−11日にプエルト・リコで行われているパブロ・カザルス音楽祭に参加し、今回の定期はその凱旋公演でもある。

 1曲目はシューベルトの弦楽三重奏曲第1番、未完成で単一楽章の作品だけど、ハイドン的で聴きやすく美しい作品だ。舞台に立ったには篠崎史紀(Vn)、豊嶋泰嗣(Va)、山本祐ノ介(Vc)。いつも1stVnを弾いている漆原啓子と2ndVnの篠崎の音を比べる機会となったけど、篠崎の方が音の密度が高く重量感がある。しなやかで漆原の音とは大分違いがある。歌わせ方のセンスもかなり異なるけど、どちらの音が美しいかは好みの問題。シューベルトの三重奏曲は、篠崎の音で骨格がしっかりした美しい演奏に仕上がったけど、やっぱり三重奏曲って何かが足りないような気がする。

 続く「死と乙女」は、シューベルト・イヤーの今年はよく演奏される曲。第2楽章の主題に同題の歌曲のテーマを用い、悲壮な雰囲気が漂う。ハレーの演奏は、4人の調和と言うよりは、それぞれの個性のぶつかり合いの中からこの曲の悲壮感を醸し出そうとするものだったと思う。調和が必要なところでちょっと違和感を感じたところもあったけど、白熱した良い演奏だった。ハレー向きの曲だと思う。

 休憩後は川崎雅夫(Va)を迎えてブラームスの五重奏曲第1番で、これは調和を基本においた演奏。五重奏曲そのものが、演奏される機会が多くないので、まったく初めて聴いた曲だけど、もう一本のVaの存在が内声部の充実に徹し、2ndVnとVaにより自由に活躍の機会を与えているように感じ。1月のバーナード・グリーンハウスを迎えてのシューベルト:五重奏曲もそうだったけど、ハレーの場合、客演の存在が良い方向に作用しているような気がする。一人ひとりの楽器の音がよりくっきりして存在感をアピールしているのだけど、しっかりしたアンサンブルを築き上げた上でのアピールなので聴いていて気持ちがいい。30回目の節目に相応しい内容の演奏会に、満足した一夜。