デュトワ=N響のマーラー

(文中の敬称は省略しています)


●97/06/12 N響の常任指揮者シャルル・デュトワが振る6月の定期演奏会、メインの曲目はマーラーの第5交響曲。デュトワというとフランスもののスペシャリストという評価がされているけど、その指揮者が振るマーラーがどのような演奏になるのか興味があって聴きに行ったけど、NHKホールは約7〜8割の入り。NHKホールとしては入った方だろうと思う。

 デュトワはモントリオール交響楽団を世界的なアンサンブルに育て上げた、現代最高のオーケストラ・トレーナーとして知られている。確かにデュトワが振ったときのN響は凄い。かつては「N響は巧いけど、やる気が伝わってこない」という評価が多かったけど、少なくともデュトワとホルストシュタインが振るときのN響はやる気がみなぎっている。そのデュトワが振ったマーラーの5番だけど、・・・今一つアンサンブルが練り込まれていないというか、すっきりしないところが残る演奏だった。

 デュトワに対してバーンスタインに代表されるような濃密なマーラーを期待するリスナーはいないと思うし、実際の演奏もそのようなものではなかった。私がデュトワに期待していたマーラーは、音譜の一つ一つが見えるような明晰なマーラー像。しかし実際に演奏はそこまで練り込まれた演奏とは言い難かったし、デュトワの狙いがどこにあるのか解らない演奏だった。N響そのものは決して悪くはないのだけど、・・・。

 その前に演奏されたのは、ソリストにエレーナ・グラファナウエアーを迎えてのモーツァルトのフルート協奏曲第1番。フルートのことはよく解らないけど、豊かな音量とブレスを感じさせない自然な流れが美しかった。オケもマーラー以上に神経を使ったサポートで好演。しかしNHKホールで、小編成のモーツァルトから感動を得ることの難しさを感じたのも事実。