METのヴェルディ「レクイエム」

(文中の敬称は省略しています)


●97/06/11 来日中のMETの特別演奏会で、NHKホールで行われたヴェルディの「レクイエム」のコンサート。ソリストにはミッシェル・クライダー(Sp)、フローレンス・クイヴァー(Ms)、ルチアーノ・パヴァロッティ(T)、ルネ・パペ(Bs)という豪華キャスト。指揮はもちろんジェームス・レヴァインで、メトロポリタン歌劇場管弦楽団と同歌劇場合唱団がステージに上がる。

 結論的に言うと、なんか不完全燃焼、感動には結びつかない演奏会だった。この前の「カヴァレリア&道化師」と比較するとオケや合唱団の比重が大きいだけに、同じ水準の演奏であってもシビアな感想になってしまうけど、音の出だしが揃わないことも多く、音が分離しないため見通しが悪い。コマーシャルベースではMETは「世界の四大歌劇場の一つ」と言われている。けれどMETは4000人近い客席を豊かな音量で満たすための大きな音を出すことに長けてはいても、その他の面、たとえば音の美しさや密度、アンサンブルの精度では他の歌劇場と比べてはっきりと劣ってしまう。合唱団はオケ以上に問題が多い。約100人程度の合唱団だったけど、音程の幅が広く、声の密度が低い。「怒りの日」などは大音量で聞こえてくるのだけど、静かな部分だと急激にスカスカになってしまうのだ。一昨年聴いたスカラ座管弦楽団&合唱団のヴェルディ「レクイエム」と比較すると雲泥の差である。レヴァインもこの歌劇場と26年ものつき合いになるのに、この程度のアンサンブルにしか育てられないのだろうか。。

 良かったのは独唱陣で、これは高い水準だったと思う。特に第7曲「我を許し給え」は最もオペラ・アリア的な部分だと思うけど、クライダー(Sp)が感情を込めたドラマチックな歌唱を披露。注目のパヴァロッティは最初は声が出ていなかったけど、久しぶりにナマの声を聴くことが出来た。衰えは隠せないとしても、張りつめた美しい声はやっぱりパヴァロッティならではのもの。クイヴァー、パペも申し分のない出来映えだった。

 でも、いくら独唱が良くてもオケ&合唱とバランスが悪くては、感動的な演奏には結びつかない。大味で「レクイエム」に特有の張りつめた緊張感がどこにも感じられないのが最大の問題かもしれない。個々の奏者の巧さは感じるのに、それがアンサンブルに結びつかないのは、指揮者の責任だろうか?