METの「カヴァレリア・ルスティカーナ&道化師」

(文中の敬称は省略しています)


●97/06/07 いま話題のメトロポリタン・オペラの来日公演は、チケット代金がメチャクチャ高いので「カヴァレリア・ルスティカーナ&道化師」の一演目だけ。これまでの評判を聞いてみると、「トスカ」「カヴァレリア&道化師」は良かったらしいけど、「コシ」は平均点の出来、そして一昨日の「カルメン」では、指揮のドミンゴにブーイングの凄まじい嵐が浴びせられたらしい。行った人の話だと「学芸会」並みの水準で、テンポや歌手との呼吸の合わせ方、歌わせ方がメチャクチャだったとのこと。怖いもの見たさで現場に立ち会って見たかったけど、それだけを見るために何万円も払う気はない(^_^;;;  そーゆー話を聞くと、今回「カヴァレリア&道化師」に絞ったのは正解だったかもしれない。

 さて今日の神奈川県民ホールも満席で、その聴衆の期待に応え、大筋では前評判通りの高い水準の公演だったと思う。まずマスカーニの「カヴァレリア・ルスティカーナ」で素晴らしかったのはサントゥッツァを歌ったマリア・グレギーナ。昨年6月には藤原歌劇団の「イル・トロヴァトーレ」ではレオノーラを歌った歌手。豊かな声量は神奈川県民ホールを狭く感じさせるほどで、嫉妬に苦しむサントゥッツァの心の内を感情豊かに表現した。ただ、ちょっと大味な感じもするので、もう少し声を絞った方が良かったかも。トゥリッドゥを歌ったファビオ・アルミリアートも引き締まった声が美しいけど、グレギーナの影に隠れてしまった感じ。ルチアを歌ったステファニー・プライスも声が美しかったし、アルフィオも荒々しい馬車屋の役にピッタリ。ローラのウェンディ・ホワイトはぜんぜん声が出ていなかったけど、物語上は重要な役ではないので、まぁ、どーでも良いでしょ。

 合唱は、これほどメジャーな歌劇場であるのも関わらず、意外なほど不揃い。声は大きいんだけど、訓練不足は明らか。でも村人が三々五々集まってきて、あまり綺麗な合唱で歌い始めるのも不自然だと思うので、ヴェリズモ・オペラとしてはこれが適当なのかも(^_^;;;  オケの音もビックリするくらい大きいけど、微妙なニュアンスやピアニッシモの美しさは後退している。レヴァインの指揮もアクセントをつけてドラマチックな高揚を狙ったもの。その意味では成功していたと思うけど、微妙な心理表現とか繊細な美しさは犠牲になってしまった。「大きいことはいいことだ!」の歌劇場だから、そーゆー音楽を求める方が間違っているのだろうけど、個人的には好みの傾向ではない。

 休憩後はレオンカヴァッロの「道化師(パリアッチ)」。私はこちらの方が水準が高い上演だったと思う。オケの音も綺麗になったしアンサンブルも整ってきた。歌手も、ネッダを歌ったダニエラ・デッシーが最初の場面で声が出なかったのが唯一の不満。だけど、後半はシルヴィオに心を奪われる女心と、テンションの高い声でカニオに脅されながらも恋人の名を明かさない気丈な一面を見事に演じ分けた。トニオを歌ったフアン・ポンスの前口上は実に立派。1990年の藤原歌劇団の上演でカップッチッリが歌ったトニオに一歩も劣らない歌声に満場の拍手が贈られた。カニオのプラシド・ドミンゴが登場すると会場から大きな拍手が起こる。このあたりはオペラ界のスーパー・スターらしいところ。前評判ではドミンゴの調子が悪いという話だったけど、この日のカニオを聴く限りは悪くない。声量は以前に聴いたときより絞った感じだったけど、適度に脂がのった声の美しさ、滑らかな歌い回し、知性を感じさせる演技力は今なお最高のテノールの一人であることは間違いないと思う。シルヴィオやペッペを歌った歌手も申し分ない出来映え。

 演出は両演目ともフランコ・ゼフィレッリ。保守的な歌劇場に見合ったオーソドックスな演出だけど、豪華さでは間違いなく世界最高の歌劇場だから、舞台装置は重厚な本物志向。細かな細工に至るまで芸が凝らされていて、素晴らしいの一言だ。普段、藤原歌劇団の舞台装置が素晴らしいと思っているけど、METの舞台装置を見るとランクの違いを思い知らされる。

 この上演は、良い意味でも悪い意味でもMETらしい上演だった。ウィーン国立歌劇場やミラノ・スカラ座と比較するとオケや合唱はかなり劣ってしまうけど、スーパースターをそろえた豪華な配役、素晴らしい舞台装置を用いたシアターピースの要素では最高水準の上演だと言って良いと思う。でも私が買ったD席は30,000円、チケット代のもとはとれたかなぁ・・・。ついでに一言、この歌劇場には関係ないけど、児童合唱はぜんぜん聞こえない上に不揃いだったのは問題。


●97/06/08 今日はベルリン・ドイツ・オペラのE・F券の発売日。ISDNの2回線をつかって電話をかけたけど、前回のベルリン国立歌劇場に比べてチケットがなくなるのが早い! たぶんE・F席の発売数が少なかったのではないか。セゾンもぴあも10時40分には発売予定枚数すべて終了とのこと。私は売り切れまでに2回電話が通じたけど、キープできたのは「タンホイザー」と「ばらの騎士」のE席だけ。「さまよえるオランダ人」をとれなかったのは残念! 仕方ないから2演目で我慢しよう・・・。