今回のジュリアード弦楽四重奏団のベートーヴェン・チクルスは、決して万全なものではなかった。それどころか技巧的な問題点が露呈して、ジュリアードが「表現したい音楽」と、ステージ上で「表現できている音楽」とのギャップが大きく感じられ、そのもどかしさで6日間が辛くも感じられた。残念ながら最終日の公演も、正直言って聴いているのが辛い部分が多かった。けれど、そのことがこのカルテットの歩んできた足跡までも否定してしまうことにはならない。 この日のカーテンコールでジュリアード弦楽四重奏団、そしてロバート・マンへの惜しみない拍手は、今世紀の室内楽演奏史におけるジュリアードの大きな足跡にたいして贈られたものだろうと思う。
1993年9月13日、このカザルスホールで行われたジュリアード弦楽四重奏団のベートーヴェン弦楽四重奏曲第14番の名演奏は忘れがたいエピソードとともに記憶に残っているけど、今回の来日公演でも「第14番」は素晴らしかった。もちろん様々な技巧的な問題点を抱えていたとしても、この14番では奇跡が起こったかのように問題点が解消されていたように思う。ジュリアードは今後、第2Vnのジョエル・スミルノフが第一Vnに移り、第2Vnに新しい奏者を迎える。新しいアンサンブルの獲得は容易ではないかもしれないけど、またいつか、ステージ上の彼らを聴いてみたいと思う。