ジュリアード弦楽四重奏団(vol.2)

(文中の敬称は省略しています)


●97/06/02 ほんとうは二日づつまとめて書くつもりだったんだけど予定変更! 今日のジュリアードは素晴らしかった。これぞ室内楽の神髄! 弦楽四重奏の最高峰といわれるベートーヴェンのカルテット、中でも最高傑作との評価が高い「第14番」の弦楽四重奏曲を、ジュリアードSQは最高の演奏で再現して見せた。

 7部編成で休止符をおかずに通しで演奏される40分の大曲だけど、1stのロバート・マンによる出だしの音から聴き手を強烈に引きつける。音の密度がこれまでに演奏と比較して、数ランク違うのだ。プレトークでVaのサミュエル・ローズが「これはベートーヴェンの最高傑作、もし無人島に行くとき一冊の楽譜を持っていくとしたらこの14番を選ぶ」と語っていたように、4人全員の思い入れが強く強く伝わってくる。

 この曲はソロが多い曲でもあるけど誰の音色をとっても均質で美しいし、掛け合いのタイミングの絶妙さ、間の取り方や呼吸の自然さは申し分ない。たぶんこのカルテットの最高の美点は、この「呼吸の自然さ」ではないだろうか。誰がリードしているのか解らないようなタイミングの取り方、4人とも呼吸を合わせようという概念を超越して音楽を理解し合っているのではないだろうか。その次元から音楽を創造するからこそ到達し得る水準だろうと思う。聴いているうちに心臓がドキドキしてきて、神経がステージに釘付けになってしまった。これだけの演奏に接することが出来るのは一年に何度もないことだ。

 ただしこの日の演奏は誉められた点ばかりではない。この14番に先立って演奏された4番・5番はちょっと問題あり。ジュリアードSQの演奏は3日目だけど、傾向として1曲目はロバート・マンのヴァイオリンの音が鳴っていないのだ。私の耳に問題があるのかもしれないけど、音程が上擦っていて不安定、テクニック的にもちょっと不安を感じさせる部分がある。ところが演奏も中盤にさしかかると人が変わったように音程が安定し始め、音も美しくなるのは不思議だ。今日の演奏で言うと2曲目の第5番第2楽章あたりから綺麗に鳴りはじめたけど、これはどーゆー訳なんだろう。もともとオケの演奏でも時間の経過とともに演奏が向上するのは常だけど、ジュリアードの場合、特にロバート・マンの場合はそれが顕著だ。

 いずれにしても「14番」は前半の不調を吹き飛ばす名演奏だった。このジュリアードSQの演奏会は初日からNHKが収録していて、いずれBSなどで放送されるらしい。是非とも衛星放送でこの14番だけでも聴いて欲しい。あー、良い演奏を聴いたあとのビールは旨い!