ジュリアード弦楽四重奏団(No,1)

(文中の敬称は省略しています)


●97/05/28-29 結成から51年目を迎えるジュリアード弦楽四重奏団の演奏会がカザルスホールで始まった。この51年の間に6回のメンバー・チェンジを行ってきたけど、今回のツアーをもって結成以来1stVnの地位にあったロバート・マンが引退する。いわば生粋のジュリアード弦楽四重奏団を聴く最後のチャンスとなってしまった。曲目は、室内楽の最高峰と言われるベートーヴェンの弦楽四重奏曲、それも六夜にわたっての全曲演奏会である。とりあえず初日と2日目を聴いたけど両日とも満員となり、3日目以降のチケットもSOLD OUTになったようである。

 初日である5月28日は1番、15番、9番「ラズモフスキー第3番」というもの。初期・中期・後期から各一曲ずつ配しているけど、正味100分を超える重量級プログラムである。初日の演奏は、正直言って今一つの内容だった。まず一曲目の第一番では、1stVnのロバート・マンの音がうわずった感じで音に膨らみがなく、全体的に見ても平板な演奏。二曲目以降はかなり改善したけど、93年の来日演奏会で聴いたときの記憶と比べると「ちょっと違うんじゃないの?」という感じだった。2曲目の15番の楽章間で2ndVnのジョエル・スミルノフが咳き込んだり、演奏中も辛そうな感じだったので、あとでスタッフに聴いてみたら風邪で熱があるのをおしての演奏だったらしい。

 不満は多かったけど、15番の「病癒えし者の神に対する聖なる感謝の歌」と題された第3楽章の美しさ、「ラズモフスキー第3番」の第3・4楽章の白熱した演奏は、なかなかのもの。なによりも、カルテットとして「演奏を合わせよう」という意識を聞き手に全く感じさせないのは、重ねた年輪の多さのみが成せるワザだろうと思う。「合わせる」という意識から完全に超越して、自然体の演奏でぴたりを縦・横を合わせてしまうのには驚きとしか言いようがない。

 2日目の5月29日は12番、2番「挨拶」、8番「ラズモフスキー第2番」の3曲、やっぱり正味100分を超えるプログラムだ。12番は個人的にはあまり魅力を感じる曲ではないし実際に爆睡している人が多かったけど、この曲の第4楽章以降は音が綺麗に鳴りはじめて、休憩後の第2番「挨拶」以降は昨日とは見違えるようなカルテットに変貌した。音の輝き、音楽の骨格の確かさが格段に向上して、ハイドンのSQに近い第2番と中期の傑作「ラズモフスキー第2番」を演奏した。4人の息がピタリとあっているのはもちろん、調子の悪かった2ndVnのスミルノフも昨日よりは調子がよさそう。

 テクニックや音色の美しさだけをとったら、ジュリアード以上のカルテットをいくつか挙げることは出来るかもしれないけど、このカルテットは年輪のみが構築できる音楽があることを教えてくれる。3日目以降がとても楽しみ!