まず王子ホールの音響だけど、キャパシティは300なので、当然、容積は小さい。しかも今日座った席は、前から7列目ということもあって、ステージから近くアーチストの動きを間近に見られる雰囲気は他のホールでは味わえないものがある。けれども残響音は少な目、楽器の音がダイレクトに聞こえてくる。個人的にはホールトーンが程良くブレンドされた柔らかい音が好きなので、この王子ホールの音響はイマイチ。したがってこのカルテットの音に関してはあまり断言は出来ないのだけど、ただ音の美しさだけをとってみれば他に美しいSQは多いだろう。
曲目はシューベルトで、前半は弦楽四重奏曲第9番D.173、第10番D.87。はじめは「あれっ」というほど音が出ていなくて、特に1stのギュンター・ピヒラーの音に艶がない。小さなミスも散見されたけど、第10番からは若干持ち直してなんとか平均点の演奏には仕上げて見せた。でも前評判には到底及ばない演奏で、正直言って「アルバンベルグってこの程度なの???」と思ってしまったのだけど、後半の第14番「死と乙女」D.810は素晴らしい演奏になった。
最近結成された新しいカルテットなら、もっと美しい音で演奏することも出来るのかもしれないけど、このABQは緊密で濃厚なアンサンブル、音色のパレットの多彩さなどを含めた総合力ではやはり一歩抜き出ているかもしれない。 シューベルトの歌曲から採られた様々な主題が緊張感あふれる音で描き分けられ、第4楽章のフィナーレは4人が一つの楽器となって燃焼していく姿は結成して四半世紀以上経過したカルテットとは思えない燃え方だった。
このカルテットの演奏会は5月29日と6月2日に紀尾井ホールでも行われる。小さなホールで聴ける機会は少ないし、音は紀尾井ホールの方が良いと思うのでオススメ。