インバル=東京都交響楽団

(文中の敬称は省略しています)


●97/05/07 都響の特別客演指揮者であるインバルの登場する定期演奏会で、文化会館はおよそ8割程度の入り。曲目はシューベルトの交響曲第8番とブルックナーの交響曲第3番の第一稿である。

 今年はシューベルト生誕200年記念と言うことで取り上げられることが多い作曲家だけど、昨日聴いた高関健=NJPとはかなりアプローチが違う演奏だった。というよりは、高関の演奏の方が変わった演奏なのかもしれない。これは私の偏見なのかもしれないけど、シューベルトの交響曲は、色彩感のコントラストが低くモノトーンで演奏されることが多い。特に「グレイト」となるとそのタイトルから巨匠的に分厚い音で演奏される傾向があるけど、音楽的な密度が低いとどうしても眠くなってしまう。実際そーゆー演奏が多いのだけど、高関の演奏は見通しが良く、各パート間の色彩感を豊かにした演奏だった。当日の解説にも書いてあったようにシューベルトがまだ20代後半という若い作曲家の作品であることを考えれば、このような解釈と演奏も十分に成立しうると思うし、その視点から見ると素晴らしい演奏だった。対してインバルのアプローチは正統的なもの。ちょっと重たい感じだったけど、インバル特有のピンと張りつめた感じが良い。やっぱり好きにはなれないけど、眠くならなかったのはインバルの力量だろうか?!

 後半はブルックナーの交響曲第3番。「ワーグナー」というサブタイトルが付けられることも多い作品だけど、第一稿で演奏されることは極めて希で、ちょっと冗長な部分もあるけどワーグナーの引用など面白い部分も多い。私は個人的には第一稿の方が好きだ。この前は89年7月13日の「東京の夏」音楽祭においてインバル=ベルリン放送交響楽団が演奏しただけである。このときの会場はガラガラで聴衆は3割入っていたかどうか・・・私が東京文化会館で経験した最小観客数だったけど、それに反して演奏は希にみる素晴らしいものだった。

 今日の都響は、そのときのベルリン放送響に肉薄する見事なもの。欲を言えば木管の音色、ピアニッシモの美しさやダイナミックレンジ、第4楽章最後のフィナーレでへたってしまった点などは改善の余地があるけど、ブルックナーの原石の輝きを伝えるには十分な演奏で、現在の都響で実現できる最善に近い内容だったと思う。インバル=都響コンビも、かなり息が合ってきたように思えるのは嬉しいところだ。

 さて、インバルの次回の来日は99年3月という話である。プログラムによると「大地の歌」「嘆きの歌」「子供の魔法の角笛」などが候補に挙がっているらしい。また来年度から音楽監督に就任するベルティーニは98年6月の定期から登場するとのこと。はたしてどのようなプログラムが組まれるのか興味があるけど、都響ファンの一人としてさらなるレベルアップを期待したい。