若杉=都響の「エレクトラ」

(文中の敬称は省略しています)


●97/04/25 若杉=都響による演奏会形式のオペラを上演する定期演奏会で、サントリーホールはSOLD OUT! 曲目は若杉が得意とする後期ロマン派のR・シュトラウス「エレクトラ」。「サロメ」と同じく血の臭いがする一幕もののオペラだ。日本ではなかなか上演される機会が少なく、この前だとたしか3・4年前、シノーポリ=ドレスデン・シュターツカペレによる演奏会形式による上演だったと思う。

 このオペラのテーマはギリシャ神話で、愛する父親(アガメムノン)を殺された娘エレクトラが、復讐のために母親(クリテムネストラ)を殺してしまう物語だ。神話の世界とはいえ、R・シュトラウスは心理劇として高い次元に昇華しているため、現代にも十分に通用するオペラだ。ただ、馴染みやすいオペラとは言い難い。

 超大編成のオケでステージは一杯なのに、オケの後ろにはさらに簡易舞台が設けられたので、ステージ上は大混雑。歌手の手前には副指揮者(プロンプター?)がいて、キューを出す。歌手は譜面を見ることなく、舞台上で簡単な動きを出していたけど、このくらいの動きなら譜面を見て歌に集中した方が結果的には良かったのではないかとも思ってしまった。

 私自身も馴染みの少ないオペラなので、評価はしにくいのだけど、1時間40分間ステージ上で歌い続けた岩永圭子(エレクトラ)は大健闘したと言って良いんじゃないだろうか。大編成のオケに対峙するには声量は乏しいけど、エレクトラの心理を持ちうる体力の限りの歌を表現出来たと思う。そのほか渡辺美佐子(クリゾーテミス)、西明美(クリテムネストラ)、大島幾雄(オレスト)も、ほぼ不満のない出来映え。

 オーケストラはピットに入っていないことも考慮して、安全運転で少し音量はセーブしたのだと思うけど、もう少し雄弁であっても良かったんじゃないだろうか。R・シュトラウスの管弦楽特有の官能的な響きと、この作品特有の血の臭いがあまり聞こえてこなかったのは残念。十分に練り上げられた管弦楽とは言い難かった。終演後は盛大なブラボーの声に混じって、オケ(若杉?)に対するブーイングが飛んでいた。全体的に見ると、感動とか感心したとか言う評価はしにくいけど、このような作品にチャレンジする姿勢は評価したい。できれば字幕スーパー付きで上演して欲しいんだけど、どーだろうか?