その曲目は、モーツァルトのピアノ協奏曲第12番で、ナマでは滅多に演奏されない曲。晩年のピアノ協奏曲が悲しみを湛えているのに対し、モーツァルトが結婚した年に作曲されただけにいたって陽性の曲である。技巧的な難しさはないような感じがするけど、モーツァルトの曲は音楽的表現が非常に難しくて、個人的にはライヴで感動した記憶に乏しい。でもフライシャーのモーツァルトはひとつひとつのフレーズに意味を込めて、丁寧に表現している。ところどころで指廻りの問題も感じたけど、少なくともこの曲を聴く上での障害は感じなかった。オケも非常に丁寧な演奏で、各パートも分離して混濁が少なく、とても良い演奏に仕上がった。
後半はブラームスの交響曲第4番。フライシャーは、音楽の縦の線とか音色はあまり気にしない指揮者なのだろうか、ところどころのパートでズレを感じたし音もあまり美しくない。それに弦楽器は目一杯に演奏させる一方、管楽器はあまり目立たない演奏だった。表現はダイナミックでそれなりに楽しめるけどそれ以上のものではなく、前半のモーツァルトの端正な美しさからすると数段落ちる内容だったと言わざるを得ない。もともと指揮者としてのフライシャーは、以前からこのような表現をする傾向なので、前半のモーツァルトが異例に良かったと言うべきなのだろう。