今日のプログラムのうち、聴いたことがある曲はバルトークの「弦楽のためのディベルトメント」だけで、昨年9月にサイトウ・キネン・フェスのとき。一夜のプログラムのメインとなりえる曲だと思うけど、残念ながら知名度では劣ってしまうので観客動員力は弱い。でも当夜のプログラムはどの曲も美しい。どれも薄暗い影がある曲だけど、KSTの引き締まった弦楽器の音がよく映える。特に吉松隆の作品はきれいだと思った。滅び行く朱鷺(トキ)の悲しげな鳴き声、羽ばたきが擬音化されているのだけど、とても高い次元に昇華されているので単なる擬音化や音響効果だけではない。これからもレパートリーとして演奏され続ける作品だろうと思う。
後半のバルトークは、小澤=サイトウキネンで聴いたときは、音楽的な内容よりもオケの優秀さに目を奪われてしまったのだけど、尾高=KSTのアプローチとはかなりの違いを感じた。民族的なリズム感が全面に押し出された作品だけど、小澤のアプローチはそのリズム感をより強調してダイナミックレンジの広い演奏に仕上げた。対して尾高はリズム感は程々にして音楽の横の流れを大事にした演奏となった。練習時間を5日とったのならもう少し縦の線をピタリとそろえて欲しいと思うけど、第3楽章のガヴォットをはさんだ曲相の変化の表現は見事。
充実した、密度の濃い演奏会だった。