デプリースト=都響のマーラー

(文中の敬称は省略しています)


●97/03/25 都響のサントリーホール定期で、指揮はAシリーズに続いてデプリースト。ソリストに都響のソロコンサートマスターで、人気の矢部達哉の登場もあって、会場はほぼ満員となった。

 矢部達哉に関しては、「AERA」の今週号に記事が掲載されていて、ファンクラブが盛況であるとかCDが一万枚売れたとか書いてあったけど、小柄で童顔のせいか少年のような面影があるヴァイオリン奏者だ。以前に都響の定期でブラームスのヴァイオリン協奏曲を弾いて好評を博したことがある。今回の曲目はベルグの協奏曲。アルマ・マーラーの娘マノンの死を悼んで作曲した曲である。

 矢部が以前に弾いたブラームスのコンチェルトを聴いての感想は、彼はとても誠実な音楽作りをする奏者だけど、ソリストとして決定的な問題点は音量が不足していることだ。このときはソロがオケに埋もれないようにオケ側が音量をセーブしていたけど、二千人のホールを満たすには細々としていて音量に物足りなさを感じてしまった。

 今日のベルグは、まず何よりも音の美しさが要求される曲だと思う。矢部のソロは、その意味では合格点で、ベルグらしい沈んだ音が美しい。音量も不満は残るけど以前に比べると進歩のあとは見える。だけど問題だったのは伴奏で、音がたるんだ感じがしてベルグの芳醇な香りが全然漂ってこない。ベルグの場合は、引き締まった緊張感が感じられないと駄目で、マノンの死の悲しみがのはデプリーストの指揮の問題だと思う。

 後半はマーラーの交響曲第5番。都響Aシリーズのベートーヴェンの演奏から、もう少し懐の深い演奏を期待していたのだけれど、フレージングが浅くやや早めのテンポ。第一楽章と第二楽章はどこか落ち着かない感じで、第2楽章のコラールもただ音が大きくなっただけでパノラマ感が感じられないのだ。さらに金管が開放的に音を出させている反面、弦楽器が埋もれてしまって後景化してしまう。第3楽章以降は持ち直し、第4楽章アダージェットもそれなりに美しかったけど、どうしても全体のバランスの悪さを感じてしまった。都響との名演が記憶に新しいインバルの演奏は、スコアが透けて見えるようだ、と言われるけど、インバルの透徹した演奏から感じるマーラーの屈折した音楽はそぎ落とされてしまって、デプリーストの演奏は表面的な旋律しか残っていないような感じなのだ。マーラーの音楽は、もっと奥行きを感じさせてくれても良いはずだと思う。