デプリースト=都響

(文中の敬称は省略しています)


●97/03/20 都響の東京文化会館で行われた定期演奏会で、指揮者はアメリカのジェイムス・デプリースト。クラシック界ではまだまだ少ない黒人指揮者で、小児麻痺の影響で足が不自由だけど、94年に都響に客演したときに骨格がしっかりした素晴らしい音楽を聴かせてくれた記憶がある。

 今回の曲目の前半は、シューマンの歌劇「ゲノヴェーヴァ」序曲とモーツァルトのピアノ協奏曲第24番(pf:小山美稚恵)だけど、シューマンの管弦楽曲は個人的によく解らないのでパス。話はいきなりモーツァルトに移るけど、この24番は演奏される機会が以外と少ない。私もいつ聴いたことがあるのか思い出せないほどだけど、ちょっと暗めで格式張った曲という感じで、他の曲に比べると馴染みにくい雰囲気はある。ソリストは小山美稚恵。美しく粒だちのよい音とリリカルな歌い回しで、国内で活動しているピアニストの中で私が一番好きなピアニスト。今日のモーツァルトは、音量も十分、奇をてらわず誠実なピアノに好感が持てる。オーケストラも無難なサポートを見せて、まずまずの好演だったと思う。けれど、どうもいつもの音色の美しさを感じない。先月の定期でも感じたことだけど、なぜか音量がでかすぎる。もっとピアニッシモを大事にして、繊細さを感じさせる演奏に仕上げてほしい。

 後半はベートーヴェンの交響曲第7番。よく演奏される曲だけど、実に難しい曲で、並の指揮者では弦楽器がバラバラになってしまう。デプリーストはゆったりとしたリズムをとり、懐が深く恰幅がよい演奏に仕上げた。管楽器、特にホルンの音に難を感じたけど、力強い弦楽器をベースによい演奏に仕上げたと思う。デプリーストと都響は相性が良いことを感じさせる。

 終演後は盛大にブラボーの声も飛んでいたけど、ちょっと気になるのは東京文化会館の音である。先月の都響定期でも感じたけど、音が飽和している感じがする。ステージの上にある音響反射板の裏側に、数ヶ月前からボーズの大型スピーカーが取り付けられており(たしか以前はなかったはず・・・)、それとの関連を言うのは考えすぎだと思うけど、音がでかければ良いというものではない。少なくとも私の席(4階正面)では、飽和してしまって、音の美しさが後退している感じがする。東京文化会館のこの席では、もう10年近く聴いているけど、こんなことを感じたことはなかったけどなぁ・・・。