前半は小品でフランセの「テーマとバリエーション」、ドビュッシー「亜麻色の髪の乙女」「アラベスク第一番」「小品」、サン=サーンスのクラリネットソナタ変ホ長調というもの。もちろん「亜麻色の髪の乙女」と「アラベスク」はピアノ曲の編曲版である。クラリネットはあまり聴きなれている楽器とはいえないので、唯一聴いたことがあるストルツマンとの比較になってしまう。
さすがに音量は豊かで、指さばきも鮮やか、テクニックも確かな感じがする。でも音色は、すこし痩せた感じで、もう少し膨らみがあった方が個人的には好み。「亜麻色の髪の乙女」「アラベスク」なんかはもう少し思い入れを込めて演奏すればいいのに・・・と思うけど、意外なほどあっさりと終わってしまう。とても淡泊な歌い回しで、ちょっと拍子抜けしたほどだ。
後半は澤和樹弦楽四重奏団を迎えてブラームスのクラリネット五重奏曲。これはストルツマン+ハレーSQで聴いたことがある演奏なので、どうしてもそれと比較してしまう。ストルツマンを聴いて素晴らしいと思ったのは、カルテットにクラリネットが加わることで音楽の奥行きがとても広がったこと。背景がパッと広がった感じで、音の懐がとても深いのだ。音が正面から飛んでくるという感じではなく、体の周りから包み込まれるような音なのである。その点では赤坂達三の音には物足りなさが残ってしまう。ストルツマンと比較するのはかわいそうだと思うけど、私には他に比較する対象がないので仕方ない。伴奏の澤和樹SQも、均質で引き締まった艶やかな音が美しく、きれいな伴奏だったけど、こちらにももう少し音の膨らみがほしい。
アンコールにはピアノと澤和樹SQも加わって、プロコフィエフの「ヘブライの主題による前奏曲」。この曲が一番楽しめた。