朝比奈=N響のブルックナー

(文中の敬称は省略しています)


●97/03/06 NHKホールのキャパシティはクラシック・コンサートが定期的に行われるホールとしては国内最大の約4,000人。N響の定期で満員になることは極めて希なことだけど、朝比奈の最も得意とするブルックナーの第8交響曲(ハース版)が演奏された今日、NHKホールは満員となった。さすがにNHKホールが満員になると壮観で、朝比奈がステージに登場したときの拍手の音量がすごい。これだけ期待されるとN響も手を抜けないだろうと思う。

 演奏は、第一楽章は手探りで音楽を作っていたような感じ。不自然にテンポを落とした部分もあったため音楽の流れは今ひとつ。しかし第2楽章のスケルッツォからはオケの音もきれいに鳴りはじめて、ほぼ申し分のない出来。第3楽章のアダージョはこの曲の白眉だけど、長い山道を登るのに似たテーマの繰り返し、頂に達したときのパノラマ感の見事さはさすがとしか言いようがない。息の長いフレージングと直線的な弦楽器のボーイングから生み出される太い骨格によって、ヨーロッパの堅牢な教会を見上げるようなブルックナーの世界を見ることが出来た。第4楽章のコーダで金管がへたってしまったのは残念だけど、全体としては期待に十分に応えた演奏だったと思う。演奏時間は正味85分程度。

 終演後のアンコールは延々と15分。オーケストラが引き上げた後でもスタンディング・オベーション で朝比奈はステージに呼び戻され、感慨深げに拍手に応えていた。演奏上のキズは少なくはなかったけど、明日の演奏では改善されるのではないかと思う。

 しかし、残念なのはNHKホールの音響である。ブルックナーの曲はもう少し残響音があるホールで演奏してほしい。最後のコーダの後でホールに残された残響音が少しずつ消えていく様はブルックナーの醍醐味の一つだと思うけど、NHKホールではスパッと途切れてしまう。楽章間の客席の咳払いも変に多かったなぁ。



●97/03/07 朝比奈隆=N響によるブルックナーの交響曲第8番の2日目。チケットは完売であるにも関わらず当日券売場には長蛇の列が出来た。私はちょうど一枚余ってしまったので列の先頭のひとに譲ることが出来たけど、朝比奈の人気は凄い。以前は朝比奈のコンサートといえば男ばかりだったけど、最近は女性リスナーも増えてきたような気がする。

 さて演奏の方だけど、昨日を上回る名演と言って良いと思う。明晰とは言い難い朝比奈のタクトゆえ、昨日の演奏会ではフライングなどが多かったけど、今日の演奏ではそのほとんどが解消されていた。木管のミスやホルンの音色など子細な問題を挙げることは出来るけど、全体の素晴らしさから見れば問題にはならない。特に弦楽器の力演は特筆に値する。オーケストラがステージから引き上げた後も朝比奈は二回も呼び戻され、満場のスタンディング・オベーションによって喝采を浴びていた。昨日は録音録画されていたけど、今日の演奏会はカメラもマイクもなし。全く残念!

 さて、N響は本日記者会見を行い、来年度9月のシーズンからBチクルスの会場をサントリーホールに移すことを発表したらしい。これまでNHKホールの音響ゆえの限界もあり、N響の定期会員数は伸び悩んでいたけど、サントリーホールに移行すればBチクルスに限っては入手困難なチケットに変貌することは間違いない。でも、やっぱり1,500円のG席は無くなってしまうんだろうな。