東京国際フォーラム「青ひげ公の城」

(文中の敬称は省略しています)


●97/02/21 この1月に有楽町の都庁跡地に「東京国際フォーラム」がオープンした。その中には音楽公演を主目的にした「ホールC」があるけど、そのオープニング記念公演のひとつ、バルトークの「青ひげ公の城」を見てきた。ちなみにこのホールに入ったのは初めて。

 あらすじは、青ひげ(Bs:チャバ・アイリゼール)の城に城に嫁いできたユディット(Ms:エリザベス・ローレンス)は、城の秘密を知るために青ひげに7つの扉を開けることを求める。ひとつずつ開けられる扉はそれぞれ「拷問室」「武器庫」「血塗られた宝物殿」「血に染まった花園」「領地」「涙」、そして最後の部屋は青ひげの過去の女たちの部屋であった。

 わずか一幕70分程度のオペラだけど、オカルト的な要素も含めて凝縮した内容のオペラである。しかし扉を開けて登場するものを具象化する事は難しいかもしれない。私が見たのはアダム・フィッシャー指揮ハンガリー国立交響楽団による演奏会形式だけだけど演奏も声も素晴らしかった記憶がある。このオペラは下手な演出を加えるくらいなら演奏会形式にして、観客の想像力に委ねた方が良い。逆に言えば「青ひげ公の城」はこれと言った演出が確立していない演目で、演出の手を加える余地の大きいことも意味する。演出家の腕の見せ所だ。

 演出家に選ばれたのは山海塾の天児牛大(Ushio Amagatsu)である。舞台装置は抽象的なもので、扉に見立てられた「謎のモノリス」状の黒いボードが半円状に七つ。その中心には同心円のサブステージが設けられ、そこで青ひげとユディットのやりとりが行われる。ちょっとバイロイト的な感じだ。舞台は簡素だけど、照明が効果的に用いられ、情景を雄弁に物語る。衣装はファッションモデルの山口小夜子(舞台にも「三人の女たち」の役で登場した)が担当し、無国籍でコスモポリタンな衣装。総じていうと、決して悪くはないと思うけど、決め手に欠ける演出だと思う。オペラを聴くことを阻害しないだけ良いけど、演奏会形式以上の良さを持ち得ているのかというとちょっと疑問が残る。

 初めてのホールなので、歌手やオケへの評価はしにくいのだけど、、青ひげは人間臭すぎる。心理描写が巧い歌手なのだけど、それが青ひげのオカルト的な存在感を希薄にしてしまったような感じ。もう少し威厳がほしい。ユディットには、文句はなし。なかなかの出来だと思った。指揮のペーター・エドベッシュは、オケをかなり控えめに鳴らしていた。ピアニッシモの美しさを大事にする指揮者なのかもしれない。開ける扉によって様々な色彩感を要求される曲だけど、NJPから良い響きを引き出していたと思う。

 都民オペラ劇場は毎年3月に行われてきて、「椿姫」や「こうもり」などメジャーな演目ばかりを扱ってきた。今回の「青ひげ公の城」は結果的には高くは評価しにくいけど、前衛的な演出家を迎えて新たな分野に踏み込もうとした着眼点は素晴らしいと思う。この方向性は失わないでほしい。