畠中恵子「クルト・ヴァイル他を歌う」

(文中の敬称は省略しています)


●97/02/15 彩の国さいたま芸術劇場小ホールで行われた畠中恵子(Sp)のリサイタル。私自身はまったく知らない歌手だったけど、聴きに行った行った理由は (1)知人がチケットが余ったとのことで安く譲って貰った (2)ヴァイルの歌を聴きたかった (3)初めて行くさいたま芸術劇場に興味があった・・・。

 チラシによると畠中恵子は、現代ものを得意とする若手歌手で、サントリーサマーフェスティバルにも毎年のように出演しているとのこと。前半はベリオの「セクエンツァV」、間にこの日の伴奏ピアニストフベルトス・ドライヤーによる自作自演曲「インプロヴィゼーション」をはさんで、ジョン・ケージ「アリア・ヴァリエーションU」。ピアノ独奏曲はおいといて、ベリオとケージの作品は前衛的すぎて私の理解力の範疇を超えている。歌には歌詞はあってもまず聞き取ることは想定されていないだろう。音階もふつーではなく、声も一般的な理解で言えば「奇声」を発していると言った方が近い。

 後半は武満徹の映画「他人の顔」から「ワルツ」と、ヴァイルの歌を6曲。もちろん、こちらは理解しやすく楽しめる曲である。ヴァイルの歌はミルバで聴いたことがあるけど、オペラ歌手が歌うのとはかなり印象が違う。ヴァイルというと娼婦をテーマにした歌が多いけど、その心を声楽的な歌い方で表すとあく抜けしてしまった感じで、今一つ物足りなさが残る。比較すること自体が不適当だと思うけど、その点、ミルバは役者として数段上だ。畠中の歌い方は役に没入しているように見えるけど、その背景にマジメで真摯な取り組みが透けて見えてしまう。それがかえってマイナスに作用しているのかもしれない。

 さて、さいたま芸術劇場は初めて行ったけど、埼京線の快速で「与野本町」下車徒歩8分位のところ。完全な住宅街で、その中から忽然とホールが姿を現す。ちょっと水戸芸術館と似ているけど、設計者は別で香山嘉夫+環境造形研究所というところ。建築物としてみてもなかなか面白い。入ったホールが演劇向けの小ホールなので音響的な事はまだ解らないけど、運営面で見ると考えられた企画を続けているホールだ。機会があったら、また是非とも行ってみたい。