二期会「カヴァレリア&道化師」

(文中の敬称は省略しています)


●97/02/11 二期会の舞台を見るのは久しぶりだけど、今日はマスカーニ「カヴァレリア・ルスティカーナ」とレオン・カヴァッロ「パリアッチ(道化師)」の上演。二期会の運営には総監督の中山悌一氏の私財に負うところが多いと言われているけど、このところは財政難から演奏会形式の上演などを細々と続けているような印象がある。一方の藤原歌劇団は豪華な舞台装置と海外から招聘した有名歌手の力で、年に3〜4回も国際的水準の上演を続けているのと比較すると、かなりの差がついてしまったような感じだ。今回は「都民芸術フェスティバル」の一環として東京都の助成を受けての上演なので、舞台装置もなかなかだったけど、スポンサーがつかないと歌劇団としての存続も難しいのは明らか。今回の指揮者はピエール・ジョルジョ・モランディ、演出は中村敬一だけど、以前に二期会でプッチーニ三部作を上演した時と同じ若手のコンビだ。そのときの上演はなかなかの好評で、その再現を期待した。

   まず「カヴァレリア」。四角?関係による刃傷沙汰をテーマにした作品だけど、美しい旋律がこれでもかっ!と惜しげもなく投入された作品。個人的にはまず管弦楽に耳がいってしまうんだけど、いささか不自然な節回しはあったけど感情を込めたドラマチックな演奏で、まずまずの及第点。しなやかで流れるような演奏が好みなのだけれど、管楽器の音がイマイチで流麗と言うには無理があったけど・・・。歌手ではサントゥッツァを歌った持木文子が力演。ドラマチックで役柄になりきった舞台姿はとても良かった。川上洋司のトゥリドゥもう少し力がほしいけど、なかなか綺麗な声。アルフィオの勝部太は調子がイマイチだったのか、最初は声が出ていなかったけど後半でつじつまをあわせた。ローラの高橋真美はまったく知らなかった歌手だけど、今後がたのしみ。舞台装置は二期会としては豪華なもので、藤原と比べても劣らないと思う。中村の演出は基本的のはオーソドックスなものだけど、馬車屋のはずのアルフィオがマフィアみたいだったり、ちょっとした工夫も見られた。

 つづいて「パリアッチ」。これも不倫のもつれによる刃傷沙汰をテーマにしたもの。舞台装置は「カヴァレリア」と同じものの使い回しだけど、コカ・コーラの看板やジープ・軍用トラックが置かれていて、19世紀から戦後のイタリアに時代を移してしまった。これも工夫の一つだけど、時代を移した事によるメリットが見えてこないのが残念。時代を移すくらいなら、「現代」にしてテレビドラマの収録のシーンに舞台を移すとか、もっと徹底的に演出を変えてほしかった。歌手ではトニオの直野資が好演で、前口上も高音部にちょっと苦しさを感じた他は実に立派。今、もっとも充実しているバリトンの一人だ。カニオの田口興輔は、これまで聴くのを避けていた歌手だけど、今日はなかなか良かった。高音部の輝かしさとテンションの高さは見事だけど、ちょっと音程が下がると急に声が不安定になってつながりが悪くなるのは難点。でも、この日の良さは声よりも役柄になりきった迫真の演技で、会場の拍手を集めていた。ネッダの松田昌恵、ペッペの藤川泰彰、シルヴィオの大島幾雄も不満のない出来映え。

 これまでの二期会の好演は主役級の歌手のうち誰かが不調と言うことが多く、フラストレーションが溜まりがちだったけど、今回は大きな不調を感じさせる人がいなかったのが幸い見応えのある舞台に仕上がった。演出はちょっと中途半端でひと工夫を要するし、オケはドラマチックだけど繊細な表現では不満を感じさせる部分が多いけど、日本人歌手だけの上演を続けている二期会だって十分な舞台を見せることは出来ることを改めて実証したと思う。しかし今後の二期会の公演スケジュールを見ると、・・・やっぱり不安を感じざるを得ないなぁ。