ハレーSQ定期演奏会

(文中の敬称は省略しています)


●97/01/31 シューベルトの200回目の誕生日に当たる今日、カザルスホールのレジデント・カルテットであるハレーSQの29回目の定期演奏会が行われた。曲目はオール・シューベルトで、弦楽四重奏曲第13番「ロザムンデ」と弦楽五重奏曲、たった2曲だけど重量級のプログラムだ。

 私はハレーSQのファンクラブ会員ということもあって、昨年12月に行われたミーティングでハレーSQのスタジオでの演奏を聴いたことがある。20人も入ると一杯になってしまうような狭いスタジオで、弦楽器はノコギリ弾きに近いような音質になってしまったけど、残響音を取り去った各奏者の音質の差異がこんなにも大きいとは思わなかった。具体的には漆原啓子(1st Vn)と篠崎史紀(2nd Vn)の音なのだけれど、この日のスタジオでは交互に1stを弾いた。もちろん普段は漆原が1stを任されているわけで、篠崎の1stを聴く希なる機会だったわけだけど、彼の音は重量感があって骨格がしっかりしている。 しなやかで艶やかな漆原の音とはかなりの違いを感じた。どのカルテットもこの程度の音色の差を持っているのかどうか解らないけど、普段はホールトーンに埋もれてしまいがちのカルテットの世界に触れた思いがした。

 さて、ハレーSQの一番の売りは「若さ」という言葉に代表される推進力だと思うけど、シューベルトのSQ、特に最初の「ロザムンデ」はこのカルテットにとって最大の鬼門かもしれない。速いパッセージを弾き倒して聞き手を圧倒するような部分は皆無に等しく、ゆっくりした濃密なアンサンブルが要求される。この曲で納得の演奏に仕上げるにはかなりの年輪を重ねないと難しいと思うけど、実際にハレーの弱点が露呈してしまったかもしれない。ハレーとしてはかつてないほどの緊張感を張り巡らせた演奏で、お互いの音に神経を配っていたけど、それでも4人の統一感が希薄でどこかよそよそしさを感じてしまう。もともとシューベルトは苦手系の作曲家なので、どうも集中出来ない演奏だった。

 後半はバーナード・グリーンハウスを迎えての弦楽五重奏曲。グリーンハウスは1916年生まれとあるから、今年で81歳になるわけだけど、そのような年齢はまったく感じさせない。足取りはしっかりしているし、矍鑠とした態度は巨匠の雰囲気を醸し出している。そんな彼の存在が大きかったからだろうか、前半の不満を完全に吹き飛ばしてしまう、素晴らしい演奏を聴かせてくれた。曲そのものも変化に富んでいてパノラマ的な景観さえ感じさせるけど、四重奏以上に各パートの音がはっきり分離して聞こえてきて、なおかつ統一感を感じさせる。まるでグリーンハウスの手で魔法をかられているような感じがしたけど、ハレーSQの潜在能力の高さがあってのこと。第2楽章の漆原とグリーンハウスの間で奏でられたピチカートによる対話の美しさは筆舌に尽くしがたい。  間違いなく1月のベスト・コンサート。