大野=東フィル「ピーター・グライムズ」

(文中の敬称は省略しています)


●97/01/29 大野和士が東フィルの常任指揮者に就任して始まった好企画「オペラ・コンチェルタンテ」シリーズ。日本では上演の機会が少ない演目も含めて、演奏会形式を基本としたオペラ公演を続けていこうとするものだけど、とても水準が高い上演を続けている。特にショスタコービッチの「ムチェンスク郡のマクベス夫人」は特筆に値するものだった。今回はブリテンの「ピーター・グライムズ」という演目で、私自身は接するのはまったく初めてのもの。

 ホントなら開演前のプレトークを聴きたっかったんだけど時間的にあきらめて、いきなり本番、疲労のため第一幕は爆睡に突入してしまったのだが、なんとも救いのないテーマのオペラである。素朴だが粗野なために村人から煙たがられている漁師ピーター・グライムズは、見習いの少年を事故で死なせてしまい、二度と子供を使役しないように言い渡される。しかし彼はその禁を破り、再び少年を酷使して死なせてしまったため、船とともに自らを海の底に沈めてしまうストーリーだ。主な登場人物はタイトルロールの他に、彼に理解を示す女性教師エレン(緑川まり)と船長バルストロード(勝部太)。

 テーマは重いし、暗く、難解である。音楽的にも耳に残りそうなメロディーに乏しいので、聴いていて楽しい演目とは思えないけど、演奏水準としては高いものだったと思う。最も良かったのは東京オペラシンガーズによる合唱、さすがはプロと思わせる統率力と表現力でこのドラマを底辺から支えていた。タイトルロールを演じたジュセフ・エヴァンスは、かなり抑えた表現にも関わらずピーターの心を十二分に盛り込んだ歌唱は見事。引き締まった声も美しい。エレンを歌った緑川まりは、いつものように安定した歌唱。感情の起伏を隠さずに表現するあたりはエヴァンスと好対照だけど、艶やかで脂がのりきった歌声は現在の日本人ソプラノではぴかイチ!(ちなみに終演後楽屋まで行ってサインをもらってきました)勝部太も、人格者としての役回りを演じきった。

 大野=東フィルも、藤原の「椿姫」で感じた不満は感じさせず、大野の統率力が光った演奏だった。このシリーズは、財政難から中止のウワサが流れたけど、来年度は8月に「ドン・カルロ」、3月にヤナーチェクの「イェヌーファ」をチェコ語による日本初演を行う。意欲的なシリーズの、今後の展開に期待したい。