ヘルマン・プライの「美しき水車小屋の娘」

(文中の敬称は省略しています)


●97/01/26 雑食性リスナーを自称する私でも、あまり聴かないジャンルがある。食べ物でも音楽でも好き嫌いはないのだが、リート(声楽)と古楽は滅多に聴きに行かない。もっぱら他のスケジュールの押されて、これ以上、コンサートのチケットを買うわけにはいかないと言う理由によるものだけれど、どちらも今後は少しずつ聴いていきたいと思っているジャンルでもある。そーゆー訳で、聴きに行ったのがサントリーホールで行われているヘルマン・プライのシューベルト歌曲集の演奏会。シューベルトの生誕200年を記念し、6日に渡ってその全貌を明らかにしようと言う試みだけど、私が買ったのは日曜日ということもあって26日の「美しき水車小屋の娘」のコンサートだけである。 

 プログラムを見るとヘルマン・プライは1929年生まれとあるから、今年で68歳になる。しかしプライから奏でられる声を聴いて、その年齢を感じる人がどれだけいるだろうか。高温域はちょっと苦しいし、かつての録音の声と比べると衰えは隠せないけど、その声は「立派」の一言である。しかし「美しき水車小屋の娘」は、若き娘に恋する青年が自らの心を歌った曲である。その心を歌うには、やはり無理があるような気がする。自分の心情を語っているのではなく、村の語り部が昔話をしているように感じてしまうのは、彼の声がもやは青年のものではないからだろう。

 しかし、それさえ気にしなければ、彼の語り口は見事で、要所の盛り上げ方はうまい。若き粉ひき職人の旅立ち・恋と失恋・自殺に至るまでの物語は、静かに幕が下ろされた。しばしの静寂の後、ホールは盛大な拍手に包まれたけど、これは彼の語り口のうまさに与えられたものだろう。

 ちなみに今日のコンサートは約9割の入り。チケットの価格もS席5.000円からC席2.000円までとリーズナブルである(公演時間は1時間程度と短いので、時間単価に直せば高いかもしれないけど・・・)。あと4回のコンサートが残されているけど、チケットはまだたくさん残っているらしいので、興味がある人は行ってみる価値はある。